村田光平氏による脱原発(核廃絶とエネルギー政策転換)に関する主要な活動と発言

村田光平(むらた・みつへい)
・1961年 東京大学法学部卒業後、2年間、外務省研修生としてフランスに留学。
・分析課長、中東第一課長、宮内庁御用係、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。
・96年〜99年、在スイス大使。その後、東海学園大学教授、原発震災を防ぐ全国署名連絡会顧問。
・現在、地球システム・倫理学会理事、日本ナショナルトラスト評議員、アルベール・シュバイツアー国際大学名誉教授、天津科技大学名誉教授、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問、サカエ・シュテュンジ財団理事。



2000年12月
著書『新しい文明の提唱−未来の世代へ捧げる−』(文芸社)発行
2001年2月7〜9日
インド・デリー市において「第一回 持続可能な開発」サミットにセッション議長として出席・講演
2001年9月20〜22日
スイス・バーゼル市にて「SUN21」会議に出席、講演

2001年 年頭所感

 日本は一体どうなってしまうのでしょうか。
 チェルノブイリの大事故の後もその教訓に学ぶことなく脱原発の世界の潮流に反して、二十基以上の原発を増やし、東海村の臨界事故から学ぶこともなく、原 子力の推進の政策を維持し、東海再処理工場の運転の再開、「もんじゅ」の運転再開への動き、「原発立地振興法」の成立などを進める日本はどうなってしまう のでしょうか。
 その可能性がもはや否定し得ないチェルノブイリ規模の原発事故が万一日本で発生するならば、旧ソ連のように強権的に90万近くの事故処理要員を動員する体制にない日本はどうなってしまうのでしょうか。その結果は世界にどう及ぶのでしょうか。
 1か月ほど前に、欧州数カ国を訪れて強い印象を得たことは、我が道を行く日本の原子力政策に対する批判が強まりつつあるということでした。
 最近逝去された市民科学者の高木仁三郎さんは、日本国民への最後のメッセージの中で、既に看取されるに到った原子力時代の末期症状の下で「巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険」と「放射性廃棄物が垂れ流しになっていく」ことへの危惧の念を表明されております。
 これまで起こってはならない筈の数多くの原発事故が発生し、「隠蔽のみならず改ざんにより責任を回避してきた原子力産業」の実態を十分承知しながら原子 力推進を続ける日本の関係者全員に対し、高木仁三郎さんが「破局的な事故を待って思い知るのか」と叫ばれている姿が、彷彿と目に浮かびます。
 日本のため、そして世界のために皆様と一緒に真剣に対策を考えていきたいと切に願っておりますので、どうか宜しくご協力をお願い申し上げる次第です。

2002年4月26〜27日
スイス・バーゼル市にて「国際原子力会議」(反核戦争国際医師団主催)にセッション議長として出席・講演を行う

浜岡原発の運転停止を求める声明

平成14年5月20日
 


下河辺淳(元国土庁事務次官)
相馬雪香(尾崎行雄記念財団副会長)
錦織俊郎(元日本高温ソーラー熱利用協会副会長)
長谷川晃(元米国物理学会プラズマ部会長)
水野誠一(前参議院議員)
村田光平(前スイス大使)   (アイウエオ順)


 この声明は、マグニチュード8クラスの大地震の発生が予測されている地域の中心部に位置する中部電力浜岡原発の破局的事故を未然に防ぐため,各界の指導層を始め、国民一人一人が直ちに行動を起こすことを上記の連名で呼びかけるものです。
 静岡県の浜岡原発1号機で、昨年11月、緊急炉心冷却システム(ECCS)の配管破断事故が起きました。2日後、同機の原子炉圧力容器から放射能を帯び た冷却水が漏れていたことも判明しました。その原因は現在に至るまで完全には究明出来ておりません。このような深刻な事故により原子力発電全体に対する信 頼はまたもや大きく損なわれました。
 地震予知連絡会並びに地震防災対策強化地域判定会の前会長である茂木清夫東大名誉教授は、昨年11月13日及び12月9日、そして今年3月5日の静岡新 聞の「論壇」で、東海地震と浜岡原発の関係につき3回にわたり警告を発しておられますが、特に次の諸点が注目されます。

1.多くの原発をもつ欧米の先進諸国の地盤は非常に安定しているのに対して、日本は大きい地震が頻発する、地盤が極めて不安定な所である。
2.1995年阪神・淡路大震災の時の高速道路の倒壊などで経験したように、耐震構造の「安全神話」というようなものは頼りないものである。これまで、 「耐震基準」が大地震が起こる度に改定されてきたという歴史があり、耐震問題には不確定性が避けられないのが現状である。
3.地震予知連絡会は、東海地方でM8級の大地震が起きる可能性があることを1969年以来指摘し、引き続き国をあげて「東海地震」の予知並びに災害軽減 に努力している。その中で想定震源域のど真中にある浜岡に原発を建設し、さらに増設を繰り返してきたということは異常と言うほかになく、到底容認できるも のではない。

 このように説得力のある警告も関係方面により十分真剣に受けとめられていないことはまことに遺憾です。「原発震災」の可能性については1997年に石橋 克彦神戸大学教授も「原発震災--破滅を避けるために」(岩波書店「科学」10月号)の中で地震学者として初めて警告しておられるのです。
 わが国は唯一の被爆国として原子力の軍事利用の犠牲国となりましたが、東海村臨界事故を始め度重なる重大事故の教訓に学ぶことなく原発を推進しておりま す。原子力の民事利用の犠牲国への道を歩むが如くです。下記連名の私達がこの声明を発するに至ったのは何としてもこれを未然に防がなければならないとの決 意からです。
 地震が起きて原子炉の運転を即座に止めても、その崩壊熱が安全域に下がるまでに約三ヶ月かかると言われています。その間に原子炉の冷却装置が機能しなくなれば、炉のメルトダウン(溶融)が起こりうる危険性が高いということです。
 日本でチェルノブイリ級の大事故が発生した場合どうなるのか、想像してみて下さい。旧ソ連と違い、90万人近い人間を強引に動員して処理する体制は、日 本には存在しないのです。現世代はもとより、子孫代々にわたる被害の大きさは測りしれません。鎮圧不能の事故発生地へは、世界からの救援も期待できませ ん。住民はもちろんのこと、事故処理に当たることになる関係企業、地方自治体、さらには消防・警察・自衛隊関係者に及ぶ放射能被曝の被害だけでも想像を絶 するものがあります。
「原発震災」の発生ともなれば、事故処理は全く絶望的となります。日本が世界を壊すという恐るべき事態の現出です。何はともあれ、浜岡原発はあらゆる代価を払っても一刻も早く運転停止すべきことは自明のことなのです。
 2001年9月11日の同時多発テロを契機として世界に存在する430基以上の原発、そして再処理工場などの原子力関係施設がテロの対象となれば、それ がすべて大量殺戮兵器となり得るとの認識が深まっております。今年3月19日、ニューヨーク市議会が満場一致でニューヨーク近郊に存在するインディアンポ イント原発閉鎖の検討を行うことに合意したのもその現れと言えます。その背景には30の自治体と二つの郡が決議を採決し、7000人以上の地域住民が環境 団体の署名集めに協力しております。西欧諸国を中心に脱原発の潮流が主流となりつつある背景にはこうした市民社会の役割が決め手となっております。
 わが国は現在、低迷を続ける経済、深刻の度を深める失業問題、広がる社会的荒廃など山積する問題に直面しておりますが、「原発震災」は上記の通りこれら の問題とは比較にならない計り知れない壊滅的影響を国民に対し及ぼす問題です。それにも拘わらず国民の間に危機意識が欠けている現状は直ちに改める必要が あります。
 浜岡原発の運転を停止しても、一部を他の電力事業者から買電すれば十分対応は出来ます。民間企業に大きな不利益が生ずるならば、西欧諸国の場合同様に、 防災や危機管理の見地より国や県が補償すべきなのです。本来、政治に携わる者にとり、「国民・県民の生命と財産を守る」という義務が最優先されるべきこと は言うまでもありません。
 このような方向で解決を図るためには、国民一人一人が自らの責任を認識して行動を起こすことから始めることが不可欠です。こうして醸成される世論を背景 に、浜岡原発の運転停止を求めて地方自治体が動き、そして国会が動き、さらには政府が動くという図式こそが今求められております。このために、各界の指導 層を始め、国民一人一人が奮起されることを心から期待してやみません。

2002年6月
著書『原子力と日本病』(朝日新聞社)発行
2002年9月
原発不祥事に関連して、超党派による脱原発を訴える意見書を各党党首に提出
2002年11月
自著『原子力と日本病』送付−−約500冊−−歴代総理、現総理、主要閣僚、経団連会長・前副会長、電力会社9社トップ、原発立地県県知事、原子力安全委員会委員長ほか宛

東京フォーラム会報寄稿文 「理想と現実」

  テロ集団による核兵器保有の疑惑の深まりを背景に、米国は核による先制攻撃の可能性を示唆し始めるなど、世界の現状は深刻に憂慮されます。私は、未来の世 代の代表を心がけ、民事、軍事を問わない地球の非核化と現在の石油文明に取って代わる新しい文明の創設を理想に掲げて参りましたが、世界の現実はこの理想 から益々遠ざかるかにみえます。しかしながら、最近、理想と現実は紙一重となったのが世界の現状だと思うに至りました。
 同時多発テロの直後、スイスのバーゼルで開催された民間の自然エネルギー促進会議で、ディヴィッド・フリーマン氏(元カーター大統領エネルギー顧問)は 中東の産油国に配慮することなくテロ対策を取り得るために、石油文明から決別すべきであると強く訴えました。フリーマン氏の実利を求める立場からの主張が 私の理想論と一致したことに驚きました。
 核兵器使用、原発事故、資源争奪紛争等々破局の到来が現実味を帯びだした状況を前に、実利を求めて動く世界は皮肉にも益々上述の理想の実現を必要とするに至ったと思われます。
 今こそ日本は地球の非核化と新しい文明の創設を世界に向けて訴えていく好機が到来したと確信いたします。「女性は命を守り、男性は生活を守る」と言われ ますが、未来の世代のために女性が益々活躍することが期待されます。男性も地球と人類の将来に思いを致し、女性と力を合わせて奮起することが切に望まれま す。

2003年3月10日
柴昌俊(ノーベル物理学賞受賞者)、長谷川晃(元米国別離学会プラズマ部会長)二氏の意向を受け、「国際核融合実験装置(「ITER」)の誘致を見直すよう」との嘆願書を小泉純一郎内閣総理大臣宛提出

2003年7月7日
中部電力トップと会見
2003年8月6日
日本経団連会長ほかに、浜岡原発・ITER誘致ほか内部情報を書面にて送付

2003年9月10日
各マスコミ多数列席の元、記者会見が行われ、「原発震災の訓練をすべき」等を提言。その内容は朝日、静岡、中日新聞などに11日掲載され、共同通信、時事通信でも配信された

2003年11月7日
日本経団連幹部数名と面談、核関連施設問題につき意見交換を行い、『脱原発への試案』を提出
2004年4月4日
出版社、新聞社、テレビ局など各マスコミの編集長・報道局長宛に、意見書および小論を計98通発出
2004年4月5日
全国知事会会長・梶原拓氏、日本商工会議所会頭・山口信夫氏、経済同友会代表幹事・北城恪太郎氏、連合会長・笹森清氏、日本経団連会長・奥田碩氏、電気事業連合会会長・藤洋作氏、全電力会社(10社)社長宛、同意見書・小論を発出
2004年8月30日
原子力安全・保安院、全国知事会、電気事業連合会、文部科学省、内閣府、衆議院議長、参議院議長など宛、核問題に関する要請を申し入れる
2005年4月1日
インターアクション・カウンシル(OBサミット=宮沢喜一、クリントン、ゴルバチョフ、ミッテランら元国家元首からなる国際会議)の会議および「核軍縮と小型兵器貿易」に関する専門家会議に招聘され、出席・発言

2004年9月9日付
小論「日本の命運を左右する電力会社」を各党党首宛発出

日本の命運を左右する電力会社


 現在、誰もが大きな時代の変化の到来を予感し、不安を強めております。経済至上主義は、リストラに見られる通り「人間排除」を生んでいます。
 今こそ人間復興を目指す文化の逆襲が必要とされます。この文化とは、揺らぎつつある戦後の政・官・財文化に取って代わる「地球市民文化」です。
 市民社会が支えることとなるこの新しい文化は、脱原発を含む地球の非核化を追求し、環境破壊に脅かされた地球を救うものとなりましょう。

核関連事業につきまとう「タブー」

 国民がこの目標に向かって歩み始めるには、大きな障害があります。それは、日本社会全体を覆う原子力のタブーです。これを破るものは不利益を被ることになる仕組みが存在するのです。このため国民は、原発の危険性について十分知らされないでおります。
 このタブーには、電力会社が深くかかわっていると指摘されています。
 今年の8月9日に発生した関西電力・美浜原発の死傷者を出した大事故は、「原発は絶対安全」としてきた原子力関係者に反省を迫るものです。これから国民 は、例えば次のような原子力をめぐる異常性に目が覚めるものと思われます。このように明確な異常性に対し、見て見ぬふりをしている関係者の責任は重大で す。
1 マグニチュード8を超える未曾有の巨大地震が予測されている東海地域のど真ん中に、中部電力の原発(浜岡原発)が存在すること。
2 中央防災会議(会長・内閣総理大臣)は、東海巨大地震による被害予測の中で、最も懸念される浜岡原発の事故(原発震災)の可能性を全く無視していること。
3 原発の建設や中間貯蔵施設の誘致を、隣接県・近隣県の参画のないまま一町長の実質的権限に委ねていること。
4 青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場(最悪の場合、原発一千基分の被害をもたらしうるとされている)で300余りの不正溶接が見つかったが、このズサン工事は単に監督強化で済ませることのできない体質の問題であるのに、結果的には不問に付されていること。
5 40年として設計・建設されてきた原発の寿命を、限られた関係者のみの判断で60年に延長していること。

電力会社の無責任な体質

 このたびの美浜原発事故は、 関電の管理体制が恐ろしい程ズサンであることを示しました。私は今年6月下旬に、関電が3600を上回る不正報告を行ったことを新聞報道で知り、衝撃を受 けました。早速、政府関係者を始め、日本経団連、電気事業連合会等に対し、関電には原子力を扱う資格はなく、まして危険性の高いプルサーマル計画を実施す ることは論外である旨、訴えておりました。美浜原発事故は、その直後発生したのです。
 国民の安全を守るためには一切の妥協を排し、最も厳しい対応が求められることを改めて思い知らされました。
 このような立場からすれば、今年8月25日付の共同通信ニュース及び8月26日付の福島民報が報じた、東京電力のズサン極まりない管理体制には深刻な危機感を覚えます。
 東電は、8月18日に国と県に報告した配管点検状況の調査結果において1500を上回るミスを犯し、なおかつ、「点検漏れはないという結論に変わりはな い」としていることが判明したのです。同社は、一昨年には「トラブル隠し」の不祥事を起こしており、また昨秋には圧力抑制室に1023個もの異物を放置し ていたことが報じられました。許されざる過ちを繰り返しているのに、自らの非を認めようとしないのです。
 このような事実は、東電の体質が関電と全く同じであることを示しています。しかし残念ながら、全国紙を始めマスコミは、このような重大な事実を、タブーの存在により大きく取り上げようとはしないのです。
 私は関電の場合同様、関係方面に東電に対し監察を行う必要性を訴えるとともに、東電のトップに対し記者会見で釈明するよう申し入れております。この際、 徹底した対策を講じなければ、東電が管轄する17基の原発の安全は、到底確保しがたいと思われます。独占的公益企業である電力会社のあり方の見直しは急務 の課題です。このような監察は全ての電力会社に対して実施する必要があります。
 原発推進をうたうエネルギー国策の中心的存在である電力会社の影響力は絶大です。国民の安全を脅かすものとなった原子力のタブーも、電力会社の協力なしには打破できません。日本の命運は、電力会社の手中にあると言っても過言ではありません。

世論は脱原発に動いている

 最も大切なことは、原発大事故がもたらす想像を絶する破局を未然に防ぐことです。
 現在、浜岡原発の運転停止を求める全国署名が 進められております。この活動は、哲学者の梅原猛氏、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏、田中康夫長野県知事などの賛同者(呼びかけ人)を得て、幅広い基盤の上 に立った国民運動として盛り上がりつつあります。すでに25万人余りの署名を集め、来年3月には100万人を目指しています。
 世論がこうして脱原発への「雪崩現象」に向かうならば、マスコミも目覚めるはずです。原子力のタブーが打破されれば、国民は原発立地に関する財政的な 「特典」などの罪深さを悟るでしょう。そして必ずや、原子力を推進するエネルギー国策の転換を求め、これを実現するものと信じて疑いません。
 問題の重要性に鑑み、超党派的立場より万全の対応をとられますよう、心よりお願い申し上げます。

2004年10月5日
小論「国有化により浜岡原発の運転停止を」を各党党首宛発出

国有化により浜岡原発の運転停止を


拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

 去る9月9日付にて、各党党首の皆様に宛てまして書簡を発出させていただきましたが、それと同趣旨のメッセージを「日本の命運を左右する電力会社」と題して各方面に発信致しましたところ、複数の専門家より以下のような指摘があり、危機感を強めております。
『原発の定期検査対象数は本来5000箇所を上回るが、現実には毎年500箇所以下に抑えられている。しかも電力自由化に伴う採算主義の制約から、検査期 間が3カ月から29日にまで短縮された例がある。手抜きが一般化しているのが実情で、事故の発生は時間の問題とされている』

 また、9月10日、共同通信は、島根県鹿島町に2001年度から今年までに34億7000万円の匿名寄付があったことを報じました。鹿島町に隣接する島 根町にも2000年度から昨年度までに、計12億円の匿名寄付があったことも明らかになりました。中国電力が寄付してきたものとみられている旨、報じられ ております。
 私はかねてから、原子力は破局の種であると主張してきましたが、電力会社が地元にカネをバラ蒔いてこの破局を植え付けている実態が明らかになりました。 これは氷山の一角ですが、国による地元への「財政的特典」と同様に、未来の世代に対する誠に罪深い行為としか言えません。

 9月30日付共同通信は、中国電力が、緊急炉心冷却装置の予備水源である圧力抑制室のプールに、ドライバーやモップなど24個の異物を放置していたこと を報じました。これは、1989年の運転開始以来はじめて2号機のプールの水抜きをして検査し、明らかになったものです。
 昨年10月26日付毎日新聞は、東京電力、中部電力、中国電力の3社・11基の原発の圧力抑制室のプールに合計610個の異物が見つかった旨、伝えております。中国電力の今回の異物放置の発覚は、同社の管理体制に全く信を置けないことを示すものです。

 また、先週発行された「選択」の10月号は、六ヶ所村の再処理工場をめぐる関係者の立場につき「皆が逃げ出す核燃料サイクル」と題し、次のような注目すべき内容を伝えております。
1)国も電気事業者も、また事業主体の日本原燃も、建設を止めたいと思っているが、自らの責任でこれを言い出す勇気がない。
2)新しい原子力長期計画の策定会議は、国と電気事業者の間の責任の押し付け合いの場である。
3)再処理工場の操業が開始されれば、国民負担による膨大な費用の増大の中で、事故の危険性が高まるという最悪のシナリオになる。

 上記の諸点から痛感されるのは、国民の安全確保を最優先する姿勢の欠如と、原子力災害に対する責任の所在の不明確さであります。特に原発の定期検査に関し、採算主義と安全の確保は本質的に両立し得ないことが確認されました。

 2002年9月30日付の各党党首宛書簡で、私は9項目の提案を行いましたが、その一つは、「国が事故防止、事故処理、放射能災害対策などにつき全責任を負う体制を確立すること」というものでした。
 私はこのような立場から、この際、原子力関係施策の国有化の検討を、超党派で始められるよう訴える次第です。
 例えば、プルトニウムのように24万年以上も管理が必要とされる放射性廃棄物の処理の責任を国以外に負わせることは、明らかに不適切です。英国も来春に は、原発を廃炉にしたり、放射性廃棄物を管理する特殊法人を設立し、政府が過去から引き継いだ責任を遂行していくことを決めていると報じられております。
 原子力推進を国策としている以上、原発大事故が発生した場合の責任は、当然内閣総理大臣が負うべきものであることをより明確に認識し、これに対応して指導力を発揮できるような体制の確立を図ることが求められます。
 現在、東海巨大地震との関連で緊急の課題となっている浜岡原発の運転停止の問題も、このような国有化の一環として対処することが必要と思われます。

 9月9日付書簡でお願い申し上げた電力会社のあり方の見直しと併せまして、原子力関係施設の国有化につき、何卒よろしくご検討のほどをお願い申し上げます。

(本状発出先)
自民党 小泉純一郎 総裁
民主党 岡田克也 代表
公明党 神崎武法 代表
共産党 志位和夫 委員長
社民党 福島瑞穂 党首

2004年11月10日
「マスコミへ緊急アピール」と題し、主要マスメディアに宛、広く文書発出

マスコミへの緊急アピール


拝啓 ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 各党党首宛書簡(三件)をお送り申し上げます。ご一読頂ければ、いかに今日本が危険な状態にあるか、ご理解いただけると存じます。
 これらの書簡はみな、政府関係者ほか各方面にも送付しております。また併せて、自民党政調会長、社民党党首ほかの方々と単独会談を行っています。
 さて、日本の原子力の実情に対して疑問が投げかけられて久しいですが、未だ有効と思われる実効的対策はとられておりません。
 先の美浜原発での死傷事故や原子力施設で相次ぐ不祥事、さらにはこのたびの新潟における「連続大地震」(新潟県中越地震)、政府によって近い将来必ず起こると予測されている「東海大地震」、身近に迫ってきたテロや国際情勢の脅威といったことなどを総合的に考えますと、このまま原子力体制を放置しておけば、取り返しのつかない原発事故が起こることが憂慮されます。
 原子力施設の特異性は、事故が起こったら止めることが至難であり、放射能災害を伴う大事故に至った場合、ほかの施設とは比較にならない被害を、数十年、 数百年どころか半永久的に及ぼし続けるということにあります。このように回復不能なまでの被害をもたらしうる人工施設は、ほかにありません。まさに破局の 種と言えます。
 特に浜岡原発(五基)については、東海大地震想定地域のど真中に位置すること、直下型地震に対する耐震性に不備があると指摘されていること、深刻な問題 が指摘されている老朽化した原発があること、また今年明らかになったことですが国の基準を満たさぬ欠陥骨材がコンクリートに使われていたこと等々、幾多の 理由により、運転停止が緊急の課題となっております。
 原子力施設を稼働させている電力会社は、今や、前門の虎(将来の大事故)、後門の狼(世論の脱原発への高まり)の間で、現実には追い詰められた状況にあ ります。しかし、巨費を投じて建設し、大きな利益をもたらすこの事業から、電力会社は容易に撤退することができずにいます。
 私が同封書簡で訴えている「原子力関係施設の国有化」は、電力会社をこの窮状から救うことにもなるのです。
 原子力を推進するエネルギー国策は、未来の世代に負の遺産を残し、現世代にも比類ない被害をもたらしうるものであり、今こそ、その転換が図られなければなりません。
 そのために必要不可欠なことは、さらなる世論の高まりです。しかし、原子力の危険性については、国民に十分に伝えられておりません。原子力に関する「タブー」が存在するためです。
 同封の書簡でも指摘した再処理工場の危険性(最悪の場合、原発一千基分の事故)、電力会社のズサンな管理体制(一社で8163件もの不正・ミス)などと いった重大なことをマスコミでは大きく取り上げておりません。これでは、国民は正しい知識を得ないまま、破滅を待つことになります。
 人々に事実と真実を伝えるのは、マスコミの責任です。マスコミが正しく動けば、人々も動きます。人々が動けば、国策転換も可能となります。日本全体が、未曾有の破局から逃れることができるのです。
 世界をも壊しかねない原子力大災害(特に原発震災)が発生すれば、日本のマスコミは真実を伝えなかったとして「歴史法廷の被告」となりましょう。
 私が顧問を務めております「原発震災を防ぐ全国署名運動」(浜岡原発の一時停止を求める)には、梅原猛氏、稲盛和夫氏、下河辺淳氏、相馬雪香氏、田中康 夫氏、西園寺昌美氏など五十人以上の各界を代表する方々が、賛同者として名を連ねております。危機意識を強める国民は加速度的に増えています。マスコミに とり、話題性としても十分なものでしょう。
 東海大地震は待ってはくれません。来年3月の全国署名の最終集計までに、浜岡原発を止めることが強く求められます。
 そのためにはマスコミが動き出すことが必要不可欠です。
 マスコミ各位におかれましては、事の重大性に鑑み、是非とも「事実と真実」を国民に伝えるよう、心よりお願い申し上げます。  敬具

2005年8月30日
全国知事会宛の意見書、ならびに「原子力大綱(案)に対する意見書」を、全政党党首に宛て発出
2005年9月6日
女川原発に おいて「実際に起こるとは考えられない地震の揺れ」を想定した設計用限界地震を、8.16の宮城県沖地震が大幅にオーバーした件に関連し、警告書を首相、 経済産業大臣、文部科学大臣、原子力委員長、原子力安全・保安院、経団連、電気事業連合会長、東京電力社長、中部電力社長などに発出
2006年2月28日
スイス・バーゼル都市部政府が後援するエネルギーフォーラム「Sun21」(エネルギーの節約と自然エネルギー開発の促進を目的とする)の名誉会員に就任

2006年8月31日
小論『万全を期さない耐震指針の見直し』がネット新聞上に掲載される

万全を期さない耐震指針の見直し


 原発の耐震基準の見直し要求が全国的な高まりを見せていますが、8月29日各紙は、これを決定する検討分科会において、地震の専門家などからなる委員の納得を得られないまま、現行指針をほぼ踏襲した案が決定された旨、報じています。
 特に『原発地震』の名付け親で、専門家や国民に最も信頼されていると言っていい石橋克彦神戸大学教授は、この決定に抗議して会議を途中欠席、委員を辞任 しております。同教授は「(分科会は)安全審査に不安を残さないための修正を認めなかった」「専門家として社会に責任を果たせない」と辞任の経緯・理由を 述べています。その意味するところは深長です。
 一般からは726通もの意見が寄せられ、見直しを求める意見が多数を占めたそうですが、取り入れられませんでした。私も昨夏、原子力委員会の「原子力政策大綱」に意見を寄せましたが、一顧だにされずに終わっております。
 原子力安全委員会は、8月22日の分科会席上で「修正は、できれば必要最小限にしていただきたい」と委員たちに要請したと報じられています。これは信じ 難い発言です。国民の生命の安全に計り知れない影響を及ぼしうる原発の安全性に関して、実質的な問題を素通りすることは、とうてい許されないはずです。
 広島工業大学の中田高教授らの調査では、今年6月、島根原発南側の宍道断層でM7級の地震が起きる恐れがあることが判明しております。このたび辞任した 石橋教授は、今回の分科会が“想定する直下型地震をM6.8程度に引き下げる”としたことを受け、「活断層を見逃していた宍道断層の問題から目を逸らそう とする姿勢が問題だ」と話しています(8月29日付毎日新聞)。
 他方、毎日新聞が原発周辺の17断層について電力会社と国の調査を比較したところ、15断層で電力会社の方が活断層で想定される地震の大きさを過小評価し、これに基づき原発が建設されているとしています(8月20日付毎日新聞)。
 このように見てきますと、原発の安全性について強い疑念が生じますが、この疑念は次の諸点によりさらに深まります。

1. 原発の定期検査直後にトラブルが発生する事例が続出しており、定期検査の限界が示されている。
2. 運転開始して間もない浜岡原発5号機及び志賀原発2号機のタービンの大破は、最新の原子力技術の信頼を損なうものである。
3. 7月26日のスウェーデンの原発事故は、あと7分遅ければ大惨事を招いていたという重大なもので、原発の危険性が改めて国際的に認識され出している。
4. 絶対の安全を期し長期間にわたり準備してきたはずの六ヶ所村の再処理工場でも、今年4月以降深刻なトラブルがたび重ねて発生している。

 原子力政策が上述のような安全面での重大な問題を抱えながら強引に先を急ぐ現状は、心ある国民の危機感を深めていると思われます。
 今回決定を見た耐震指針は、9月中にも原子力安全委員会で決定されることになっていますが、日本国民はこれを許すほど愚かであるとは思われません。世論は必ずや立ち上がり、その修正を実現するに足るほど盛り上がるものと確信しております。

2007年2月6日
「日本の原子力政策の転換を訴える」を、政府関係、電力会社など関連機関および専門家などに発出

日本の原子力政策の転換を訴える


1 はじめに

 このたび明らかにされた東京電力による199件の偽装工作は、原子炉の炉心冷却装置における非常用ポンプの故障という重大なものを含んでおり、国民の安 全を最優先する立場からすれば、同社に原発を取り扱う資格はないと判断せざるを得ません。国の監督責任は重大であります。
 この機会に原点に立ち戻り、原子力政策のあり方を見直す必要があります。特に、政策の修正を一切なしえないという、我が国独特の原子力政策の決定のあり 方の改善が早急に望まれます。我が国の原子力政策に見られる硬直性は、諸外国に比べて異常なものと言え、これは主管省のみで政策を決定するメカニズムに起 因しているものです。
 破局の到来を未然に防ぐためには、(1)原発の国有化、(2)原子力安全・保安院の主管省からの独立、(3)浜岡原発の全面閉鎖、及び(4)六ヶ所村再 処理工場の閉鎖を早急に実施すべきであり、これを可能とするような政策決定メカニズムを確立することが、とりあえずの緊急課題であると思われます。

2 戦後体制を象徴する原発

 原発開発のきっかけを自ら生み出したことを深刻に反省したアインシュタインは、死の5か月前、「今度生まれ変わったらブリキ職人か行商人になりたい」と述懐したそうです。「核のない世界」が人類の理想であることは、誰も否定できません。
 唯一の被爆国である日本が、今日55基もの原発を有していることは、まさに異常と言えます。世界一の地震大国日本が、米、仏に次ぐ原発大国になっている のです。これは、放射能の危険性を国民に知らせないという「原子力タブー」があってはじめて可能となったことと言えます。こうした事態は、経済至上主義に 立脚する戦後体制を象徴するものと思われます。
 原発テロリズムを考えれば、安全保障の見地からして、日本は実質的に最も脆弱な国になっていると言って過言ではありません。放射能汚染も避けられず、原発事故の可能性も増しています。
 そうした実情からして、東海大地震が予測される地域のど真ん中に存在する5基の浜岡原発の運転停止を求める全国署名は、現在90万筆近くを数えていま す。また、一日に原発一年分の放射能を日常的に放出している六ヶ所村の再処理工場は、浜岡原発とともに、日本のみならず世界を脅かすものとして、国際的に もその実態が知られ注視されております。

3 原子力の危険性に対する世論の認識の深まり

 最近の世論の動きを見ると、原子力の危険性に目ざめつつあることが看取されます。チェルノブイリ原発事故20周年に関する多くの報道が、これに大きく貢献しております。また最近は、原発事故の悲惨さを描いたドイツの映画『見えない雲』六ヶ所ラプソディー』『東京原発』など、話題となる映画も増えつつあります。私が関係する大学でも、多くの学生が原子力の危険性に対する認識を深めております。
 現在、アル・ゴア前米副大統領の地球環境に関する警告の著書、またそれをもとにした同名の映画『不都合な真実』が世界的に大きな注目を集めています。この著書ならびにドキュメンタリー映画の主題は「地球の温暖化」ですが、これを「原子力の脅威」と置き換えてみてもすべて当てはまることに驚かされます。
 アル・ゴア氏がよく引用する比喩があります。「カエルは熱湯に飛び込めばすぐに飛び出すが、ぬるま湯から少しずつ熱していけば、お湯が沸騰するまで気がつかず死んでしまう」というものです。この比喩は、人類が直面している脅威を見事に暗示しています。
 また、アル・ゴア氏は「すべては倫理の問題である」と強調し、温暖化の実態に関する科学者の報告書が政治的圧力で改ざんされる事例、あるいはマスコミを通じた情報操作を指摘していますが、これも原子力問題を想起させるものです。
『不都合な真実』が最も強く訴えているのは、脱原発など資源多消費型文明からの決別の必要性だと思われます。新しい文明の創設は、これを支えるエネルギー についても、脱石油、脱原発など、新たな課題への取組みを必要としているのです。事実、脱原発を進めているスウェーデンでは、2020年までの脱石油を決 定しております。

4 原子力に対する批判の高まり

 原子力に対しては、今後次のような観点から批判が強まることが予想されます。
(1)未来の世代の人権を蹂躙する
 処理方法が見いだされておらず半永久的に有害な原発の廃棄物を後世に残すことは、倫理的に許されることではありません。放射能は人間の生殖機能(遺伝 子)を傷つけ、その被害は幾世代先にまで及ぶものです。未来の世代の人権保護の見地から、対策が必要とされます。
(2)原子力の使用は倫理の根本に反している
 原発は当初より、その廃棄物の最終的処理法を持たないまま運転されています。また、万全の大事故対策も存在せず、放射能汚染から住民を守る措置もまったく不十分です。これは「無責任」そのものと言えます。
 また、原子力の危険性を直感する住民の反対を抑えるため、交付金や匿名寄付など巨額の金をばらまいているのは周知のことであり、こうして破局の種を植えつけることは倫理の根本に反しています。
(3)核兵器、原発は地球環境を破壊する最大の潜在力を有する
 これまでに行われた各国の核実験は、数千万人規模の被曝者を生んでいます。また原発大事故の恐ろしさは、チェルノブイリ事故、スリーマイル島事故などにより立証済みです。
 またマクナマラ元米国防長官が述べているように、「キューバ危機」をはじめ、これまで核戦争を回避できてきたのは「幸運」によるものであり、この「幸運」をいつまでもあてにすることはできません。
(4)原子力の平和利用は核拡散をもたらす
 イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮などの核開発がその証左です。「原子力の平和利用」により生ずるウラニウム及びプルトニウムなどは、核テロリズ ムの脅威を現実のものとしています。最近ロンドンで元KGB職員がポロニウムにより暗殺されたことが想起されます。
(5)原発は新しい文明を支えるエネルギーとして適さない
 原発は常時「フル稼働」を必要とし、夜間に余計となるエネルギーを活用するため揚水ダムを造るなど、電力消費の傾向を助長するものです。

5 「原発ラッシュ」の潮流と地球の非核化

 上述のように、世論の動きが原子力の危険性に目覚めつつある中で、最近、原発の新規開設の動きが「原発ラッシュ」として報じられています。この点に関して指摘しておきたいことがあります。
 一つは、このような潮流は、原発大事故がどこかで発生すれば消え去るものであるということです。昨年7月、スウェーデンで原発の緊急用発電機が動かず、 あと7分で大惨事になるという重大な事態を引き起こしました。これにより、原子力の安全性に関する論議が欧州各国で活発化しております。
 また、報じられているように、原発がアジア諸国、アラブ諸国にまで拡散することは、平和利用を超えて核開発に至り得るものです。これが核テロリズムの可能性の増大につながるものであることは、言うまでもありません。
 2005年6月、スタンフォード大学で開催されたOBサミットにスペシャル・ゲストとして出席したAmitai ETZIONIジョージ・ワシントン大学教授は、論文で骨子次のような見解を発表し注目されています。
(1)国家安全保障の見地より、50万人の即死者と大都会の壊滅をもたらし得る核テロリズムの防止が最優先されねばならない。
(2)そのためには、核兵器及びその製造を許す核物質へのアクセスを断たねばならない。
(3)NPT(核不拡散条約)体制下では、核物質の管理された保有が認められているが、これを改め、核物質の回収を行うべきである。
 このような見解からすれば、「核の平和利用」に対する規制強化は、早晩不可欠となります。しかしイランの例が示すように、これに対する抵抗は強く、最近 の原発復興の潮流はさらにその代価を高めると思われます。結果として、核保有国が本格的な核軍縮に応ずることによってのみ、「核の平和利用」の規制を実現 できるような事態となることも想定し得るのです。
 これまで核保有国は、NPT条約上課せられている核軍縮の義務を、真剣に果たそうとはしてきませんでした。しかし、北朝鮮及びイランへの対応に見られる とおり、米国は核テロリズム防止を含む安全保障上の要請から、今後原子力の平和利用を規制する方向で動かざるを得なくなるでしょう。そしてその代価とし て、自らも他の核保有国とともに核軍縮に踏み切らざるを得なくなると思われます。こうして、民事・軍事を問わない地球の非核化という理想が現実味を帯びる ことになります。
 人類は現在、核問題をはじめとする危機的状況にあります。理想を実現しなければ、存続が危ぶまれる状況にあるのです。その意味で理想と現実は紙一重となっております。ここに天の摂理が感じられます。

6 今後の課題

 原子力政策の転換を行う際に考慮すべき点としては、次のような諸点を挙げることができます。
(1)原子力関係の仕事に携わる人々の生活を、不安のないものにするための施策を講ずること。
(2)国が事故防止、事故処理、放射能災害対策などにつき、全責任を負う体制を確立すること。
(3)燃料電池、太陽エネルギー、風力エネルギーなど、新エネルギーの開発に本格的に取り組むこと。権威ある外国の専門家が、エネルギー需要の4割まで開発可能としている「地熱エネルギー」の活用見直しも求められる。
(4)原子力分野を専攻する学生の深刻な不足が取り沙汰されているが、既設原発、使用済み核燃料及び核廃棄物の安全管理の専門家を育成し、その使命に充分誇りを感じさせる体制を整えること。
(5)ドイツ、イタリア、オーストリア、スウェーデンなど、欧州の主要国は脱原発に踏み切っているが、その根拠となる理由は、連帯の精神から他国とも共有 し得るはずである。他国での事故が自国にも及ぶことを考えれば、このような連帯は不可欠と考えられる。こうした国際連帯を日本は世界に訴えていくべきであ る。

7 おわりに

 原発が「核の平和利用」と銘打たれ人類の夢のエネルギーとして登場し、多くの優秀な人材が献身的にその開発に貢献してきていることは評価されねばなりま せん。しかしながら、広島・長崎の悲劇、不幸な原発大事故などにより放射能の危険性が立証されている今日、「ぬるま湯の中のカエル」となっている日本そし て世界は目覚めなければなりません。
 この小論は、原点に立ち戻ることにより「核のない世界」の実現を訴え、すべての関係者の奮起を願うものです。
 みなさまのより一層のご理解とご尽力を、心よりお願い申し上げます。

2007年6月18日
経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会に対し、「原発震災を防ぐ全国署名」の提出と要請書提出(意見交換)を行う。また、防災担当大臣に要望書を発出した

2008年1月29日
小論『「原発ルネッサンス」の潮流を逆転させる中越沖地震』がネット新聞上に掲載される

「原発ルネッサンス」の潮流を揺るがした中越沖地震


原発の再評価・推進傾向(原発ルネッサンス)に必然性はない

 7月16日に発生した中越沖地震は、核の世界に「原発ルネッサンス」とは逆方向の新しい潮流を生みつつあると思われます。
 7月23日付ロスアンジェルス・タイムズ紙は、次のような指摘を行っております。

a) 温暖化の対策として原発を有効なものとするためには、今世紀半ばまでに、毎週あるいは隔週に一基ずつ原発を建設していく必要があり、そのためには部品製造すら間に合わず、非現実的である。
b) 現存する104基の原発(電力の20パーセントを供給)は寿命が近づいており、その代替には4、5か月に一基のペースで今後40年間、原発を新設する必要がある。温暖化対策にはとうてい間に合わないであろう。

 このような立場は、最近米国の知人(会社社長)から寄せられたよう次のようなメッセージと軌を一にしております。
「米国では温暖化対策として原子力を容認するようにとの圧力があります。私はこれに強く反対します。お送りいただいた資料は私の所属するグループの会員に配布いたしました。
 エネルギー保存計画も代替エネルギー戦略への財政支援もない状況の下で原子力を擁護することは、倫理的に許されません。ご指摘の核拡散、廃棄物、大災害の可能性は極めて現実的なものです。核燃料が核兵器に転用される危険性は、核拡散とともに高まります。
 エネルギー問題は統合されたグローバルな問題であり、国際協力が求められます。だからこそ軍国主義が最大の危険であると信じます。
 世界平和と全ての核物質の削減のために、ともに力を合わせましょう。」

活発化する「原発不信」の潮流

 このたびの中越沖地震は、日本の原子力政策の根底を揺るがしました。そして、同国策の抱える問題点は世界中に知れ渡りました。
 例えば、英国のNATURE誌、The Times紙は、同地震が柏崎刈羽原発に与えた被害を大きく報じております。その中で、特に強調されているのは、原発震災を惹起する可能性の強い浜岡原発の危険性です。浜岡原発問題は、大きな国際関心事になったと思われます。
 また、原発輸出の対象国の一つであるインドネシアでは、最大のイスラム団体(NU)が、原発導入に反対することを決めたことが報じられております。
 国内では、中越沖地震により、国民の原発の危険性に対する意識が確実に質的変化を遂げています。原発を抱えた地元からは、原発の定期検査期間の変更反対、耐震構造審査に関する第三者委員会設置の要求など、政府不信の動きも具体的に出てきております。
 自民党の河野太郎議員は、ある週刊誌上で核燃料サイクル政策を痛烈に批判し、「こんなバカな政策は一刻も早くやめなさい」と発言した旨も、報じられております。
 このように、中越沖地震を契機として、新しい潮流の萌芽が見え始めています。

 中越沖地震が原発に及ぼした被害については、日が経つにつれ新しい事実が次から次と明るみに出てきています。地震発生直後に来日し、拙速と批判された IAEA調査団による再調査も予定されております。その全貌が判明した時の影響も、全世界に及ぶことが予見されます。
 また、来る10月26日には、浜岡原発4基の運転停止を求める裁判の判決が予定されております。柏崎刈羽原発の原子炉設置取り消しの訴えも最高裁にて係争中です。
 その趨勢如何は、新しい潮流の今後を左右するものと思われます。司法の良識が期待されます。

脱原発と「新しい文明の創設」へ向けて

 去る7月20日、私は外国特派員記者会見で浜岡原発および六ヶ所村再処理工場の危険性を訴えるとともに、「原発ルネッサンス」の下で原発を輸出する動きが活発化しつつあることへの深い憂慮を表明いたしました。
 このような活動を含めた私の近況報告に対し、アル・ゴア前米副大統領より10月1日付の返書が寄せられました。
 同返書が、温暖化を口実とする「原発ルネッサンス」に強い懸念を呈する私の立場に一定の関心を示していることは、アル・ゴア氏が私と波長を同じくするこ とを示唆するものと受け止めております。同氏の『不都合な真実』が、地球環境に対して最大の破壊力を潜在的に有する原発の推進に利用されるのは不本意のは ずだからです。

 このほど同氏がノーベル平和賞を受賞したことにより、米国での温暖化対策への取り組みが加速され、天然資源を節約する新しい文明の創設の必要性について、世界が認識を深めていくことが切に期待されます。

2008年5月13日
「原発震災を防ぐ全国署名」が900,034筆になったこと、また茂木清夫元地震予知連絡会会長も署名したことを、原子力安全委員会に報告し、意見交換した
2009年1月1日
IPCCのパチャウリ議長(ノーベル平和賞受賞者)より、村田氏の文明の危機論に対し、激励のメッセージが寄せられる
2010年8月29日
8月25日より5日間開催されたバーゼルでの核戦争防止国際医師会議(IPPNW。1985年ノーベル平和賞受賞)の世界大会に「後援委員」として出席。8月29日、全体会議の場でスピーチを行い「地球倫理国際日」の創設などを提案
2011年1月29日
ルース駐日米大使より、国連倫理サミットがオバマ大統領の核廃絶の理念に向けての具体的第一歩であることを理解し、かつ、評価する趣旨の書簡(こちら)が寄せられる
2011年2月26日
秋葉広島市長より、2020年の核廃絶に向けての協力を願う書簡を受領する
2011年3月11日 東日本巨大地震発生

2011年3月14日 メッセージ

 福 島原発の事故は内外に原発の危険性を改めて警告するものとなりました。原発は運転停止後も崩壊熱を冷やすため3ヶ月冷却を続ける必要があるとのことです が、まだ予断を許さない今回の事故に関する連日の報道を通じ、世界中が「原発安全神話」から目覚めることは、もはや確実と思われます。
 海外・国内の友人、知人よりお見舞いをいただいておりますが、今回の教訓を生かし、日本として国連倫理サミットを地球の非核化と一層結びつけて実現し、 原発ルネッサンスの終焉を含む核廃絶へ向けての大きな流れを作ることに貢献するよう働きかけていきたいと考えております。
 すでに100万近くの反対署名が集っている浜岡原発の存続は、全ての日本国民から論外と思われるに至ったと思われます。


2011年3月17日
Deiss国連総会議長宛、核廃絶をも視野に入れた国連倫理サミットの開催申し入れるメッセージを発出した
2011年3月18日
広瀬隆氏からの要請を踏まえ、菅総理と清水中部電力社長に対し早急に浜岡原発を停止するよう、それぞれ秘書官、秘書部長を通じ申し入れた
2011年3月21日
ルース駐日米大使宛に、二度と今回の日本の悲劇が繰り返されないようにするため、平和利用を含む核廃絶の理念を打ち出す国連倫理サミットの開催を訴えるメッセージを発出し、オバマ大統領への伝言を要請した

3月25日発出のメッセージ

 その可能性がいまだ排除されない原子炉爆発という恐怖の元で、日本国民が原発に対しどのような気持を抱いているかを内外に伝えることは日本の責務と考えます。
 21日、ルース駐日米大使宛に、二度と今回の日本の悲劇が繰り返されないようにするため、平和利用を含む核廃絶の理念を打ち出す国連倫理サミットの開催 を訴えるメッセージを発出し、オバマ大統領への伝言を要請しました。潘基文国連事務総長及びフォーレ駐日仏大使にも同趣旨のメッセージを22日発出いたし ました。
 今後の課題を想起させる2007年7月の新潟中越沖地震直後に行われた、外国人記者クラブでのスピーチの末尾の次の指摘が改めて注目されております。スイスなどで知人の講演で引用されております。

 ──原子力の問題は倫理と責任の問題に集約されると思われます。
 危険であると知りながら原子力施設を他国に輸出することは倫理にかなっているでしょうか?
 危険を承知しながら政策決定者がこのような施設を輸入することは倫理的でしょうか?
 核廃棄物の処分の仕方も知らずに、また何十万人という人員の動員を必要とする事故を鎮圧する備えもなくして、(世界中で)430基以上の原発の稼動を認め放置することは、責任感の欠如と言えないでしょうか?
 このような破局の種を取り除くためになにもしないでいるということは、正義感の欠如ではないでしょうか?
 上に述べたことは、私がかねてより訴えている軍事・民事を問わない地球の非核化の必要性を正当化するものだと思われます。
 我々は二つの選択の前に立たされております。一つ目は予防措置として地球の非核化を開始すること、二つ目は破局的な災害の発生により、一つ目の選択に追いやられることです。──

  旧ソ連のように事故処理に80万人あまりの要員を強制的に動員しうる体制もなく、スウェーデンのように法律で国民の事故処理の義務を定めていない無責任さ が想起されます。日本で、チェルノブイリ事故のような核分裂暴走事故の鎮圧に要する数十万人の要員を動員できるのか、想像すると恐ろしくなります。民主主 義と原発は両立し得ないものだということを見せ付けられております。無数の無実の犠牲者を生み倫理の欠如を露呈するに至った原発の存続は、世界中でますま す多くの人にとって論外になりつつあることが看取されます。
 もし東海大地震が発生し、浜岡原発が核分裂暴走事故となれば日本はお終いです。18日には、菅総理と清水中部電力社長に秘書を通じ、早急に90万以上の 反対署名の集った浜岡原発の運転停止を実現するよう申し入れました。23日、海江田経産大臣、江田法務大臣,与謝野経済財政大臣および川勝静岡県知事に対 しても、秘書を通じ同様の申し入れを行いました。
 反対署名を100万台に早急に到達させる運動が本日始められました。各方面より支持の申し出が見られます。もはや大多数の国民にとり浜岡原発の存続は論外だと思われます。
 皆様、何卒ご指導とご支援をお願いいたします。


 地球システム・倫理学会の緊急アピールと「原発震災を防ぐ全国署名運動」の高まり

 私が理事を務める地球システム・倫理学会は4月5日、緊急アピールを発出し、国連倫理サミットの早期開催を呼びかけました。
 ドイツでは、メルケル首相が倫理委員会を招致し原発政策を再検討することが、昨日のニュースで報じられました。
 倫理の本質は人に迷惑をかけないことです。原発は想像を絶する迷惑をかけるものであることを日本が立証しつつあります。
 報道を規制されている国民は、事故発生後3週間たってようやく事態の恐ろしさ、深刻さを感じ出したと思われます。
 92万筆余りの反対署名が集っている浜岡原発の運転停止が緊急の課題となっておりますが、支持基盤の飛躍的拡大が見られます。谷口誠元国連大使、兵藤長 雄元欧亜局長も昨日賛同者になりました。本日は賛同者として新たに馬渕睦夫前防衛大学校教授(元駐ウクライナ大使)及び木村敬三日独協会副会長(元駐ドイ ツ大使)が加わりました。
 京セラの稲盛名誉会長をはじめ梅原猛、坂本龍一各氏等々が名を連ねている全国署名はこのように盛り上がっております。

2011年
・菅総理宛、浜岡原発停止を要請する書簡を提出する。(2011.4.29)
・「朝日ジャーナル 原発と人間」(6月5日号)に、小論『国際社会が問われている「核の平和利用」の倫理性』が掲載される。(2011.5.24)
・中日新聞(6月8日付)にインタビュー記事が掲載される。(2011.6.8)
・東京新聞静岡版(6月9日付)に、インタビュー記事が掲載される。(2011.6.9)
菅直人内閣総理大臣宛(7月7日付)、海江田万里経済産業大臣宛(7月17日付)、細野豪志原発担当大臣宛(同日付)文書を発出、細野大臣より丁重な返書を受領する。(2011.7.27)
・福島原発事故による放射能汚染を含む被害の深刻化、被害者の間に高まる「原発憎し」の声などを含め、日本がこの悲劇の再発を防ぐために世界に伝えるべき ことを内容とする書簡を国連事務総長、日本駐在の仏大使、米大使、中国大使各国大使などに発出した。(7月初旬から中旬)
・調整運転中の北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)に関し、原子力安全委員会の判断を得た上で営業運転の再開を認めることに反対するメッセージ(こちら)を菅総理、海江田大臣及び細野大臣に送る。(2011.8.10)
・同主旨のメッセージ(こちら)を斑目春樹 原子力安全委員会委員長に送る。(2011.8.10)
・ディウフ・フランコフォニー事務総長(前セネガル大統領)より東日本大震災に対するお見舞いと連帯を表明し、脱原発の発信を激励する書簡(こちら)を受領。(2011.8.10)
・東電による「黒塗り資料提出事件」に関し、もはや「原発推進は国策ではなくなったこと」を国が認め、これを表明し、推進の体制の抜本的見直しを行うことなどを訴える野田総理宛書簡(こちら)を発出。(2011.9.16) 細野大臣、枝野大臣、玄葉大臣に対しても発信した。
・法政大学で開催された国際コロキアム(スイスチューリッヒ工科大学と共催)でのスピーチ(こちら
を行い、福島原発の地下が「冷温停止」が通用しない危機的状態にあるとネットなどで取沙汰されていることにつき注意喚起を行う。(2011.10.5)
・2002年に下河辺淳元国土庁事務次官他6名連名で浜岡原発の運転停止を求める声明を発出し、2004年にはこれが全国署名に発展したが、このほど目標 の100万筆に到達し、全国署名連絡会他15の関係諸団体代表とともに牧野聖修経済産業副大臣に対し報告を行う。(2011.11.17)
・これに関連し野田総理宛に書簡(こちら)を発出し、ニューヨーク・タイムズ紙により批判された国ぐるみの「原発腐敗」批判に対する名誉挽回のため、脱原発を急ぐよう要請した。(2011.11.20)
「さようなら原発 1000万人アクション」の賛同者となる。(2011.11.29)
・東電の黒塗り資料事件と地震原因説などにつき、野田総理宛、書簡を提出。(2011.12.5)

浜岡原発の廃炉を求めて──全国署名100万筆到達に思う

2011年12月15日
村田光平

 昨年の長期に及んだメキシコ湾原油流出事故を前にして、多くの人が、もし放射能がこのように流出を続けたらと戦慄を持って連想したことが思い出されま す。この悪夢が福島原発事故で現実になってしまいました。かねてより浜岡原発について警告されていた恐るべき原発震災です。これにより急激に高まりを見せ た浜岡原発の運転停止を求める声はついに政府を動かすに至りました。

 振り返れば、2002年に下河辺淳(元国土庁事務次官)、相馬雪香(尾崎行雄記念財団副会長)、錦織俊郎(元日本高温ソーラー熱利用協会副会長)、長谷 川晃(元米国物理学会プラズマ部会長)、水野誠一(前参議院議員)の諸氏、そして私の6名の連名の声明を発出し浜岡原発の運転停止を訴えました。この声明 は、マグニチュード8クラスの大地震の発生が予測されている地域の中心部に位置する中部電力浜岡原発の破局的事故を未然に防ぐため、各界の指導層をはじ め、国民一人一人が直ちに行動を起こすことを呼びかけるものでした。
2004年には稲盛和夫京セラ名誉会長、梅原猛氏、坂本龍一氏などに賛同者になっていただき、全国署名運動が始められ、福島事故発生時までには92万筆余りが集められておりました。

 今回の事故で悪戦苦闘する状況を目の当たりにして、もし浜岡に原発震災が発生すれば日本はお終いとの危機感に襲われました。全国署名運動は100万台到 達を目指し拍車がかけられることになりました。フランス留学生からも60筆が送られてくるなど内外で盛り上がりを見せ、政府関係者への働きかけも強化され ました。
このように高まりを見せた浜岡原発の運転停止を求める声は、ついに政府を動かすに至りました。今年5月の菅総理の中部電力に対する運転停止要請には、この ような背景があったのです。こうして実現した浜岡原発の全面停止は画期的なことであり、脱原発を求める国民の声を一段と高める契機となりました。

 こうした状況の下で、全国署名は今年11月に目標の100万筆に到達しました。11月17日、全国署名連絡会他15の関係諸団体代表とともに牧野聖修経 済産業副大臣を往訪して、これを報告するとともに浜岡原発の永久停止の決断を要請する枝野幸男経済産業大臣宛書簡を手交致しました。

 その際私より牧野副大臣に対し次の諸点を述べました。

(1)「結果責任を問わない原子力村」に関して、福島原発事故の発生をもたらしたことの罪深さの認識と反省不足が見受けられることは、犠牲者の計り知れない不幸な立場を思いやる想像力不足と倫理の欠如に起因する。
(2)福島事故現場の地下でメルトアウトした燃料棒がうごめいていると取り沙汰されている現状は、事実ならば人類が経験したことのない深刻な事態であり人 類の叡智の総動員を必要とする。「冷温停止」は地下に通用せず、それのみでは事故を収束し得ないことになる。その年内達成の見通しを発表して内外に事故収 束につき過度に楽観させているのは問題である。しかも現場からは大量の放射性物質の放出(毎時1億ベクレル)が止まらない。
(3)このような状況下での原発輸出は論外である。7年前に「日本の命運を左右する電力会社」と題する警告のメッセージを各政党党首をはじめ各方面に発出 した。今や福島事故を他地域、他国で発生させないようにするのが日本の歴史的責務であるとの考えから、同事故の教訓を十分学ぼうとしない内外の状況を前に して、「世界の命運を左右する電力会社」と指摘し出している。
(4)浜岡原発の運転の永久停止をもとめる牧之原市議会決議の影響が原発近隣地域に拡大しつつあるが、この動きは「牧之原市現象」とも呼べるもので、日本 国内のみならず世界の脱原発に向けての記念すべき第一歩だと考えられる。原発を所有しない国々も参加する民亊、軍事を問わない真の核廃絶のためのグローバ ルな運動にも発展しうるものである。
(5)来年5月頃には全ての原発が停止する見通しとなったが、安全を保証する国民に信頼される機関が存在しない状況下での再稼動はありえず、日本の脱原発 は少なくとも事実上実現する。「天地の摂理」(父性文化の天と母性文化の地を合わせた新語)だと思われる。国としてはそれまでにこれを世界に発信し得る政 策に早急に纏め上げことが切望される。

 浜岡原発の今後の帰趨は世論に対する電力会社全体の姿勢と深く結びついております。11月17日付ニューヨーク・タイムズは「なおざりにされだした公益 事業改革」と題して、電力会社の見直しが、これまで裨益して来た広範な指導層の支援を得て回避され出しているとの厳しい記事を掲載し、多数の読者から「腐 敗批判」のコメントが寄せられております。上記(5)の脱原発政策決定が、国と電力会社は一蓮托生でないことを明白に世界に示すために急務となったと確信 いたします。

 政府もようやく原子力安全・保安院の経産省からの独立の必要性を認めるに至ったことにより、これまでの安全審査の信頼性が根底より問われるに至りまし た。特に、福島事故の津波事故原因説に対して、益々有力視される地震事故原因説が確立すれば再稼動は実質上不可能となり、政策としての脱原発が視野に入る ことになります。日本は国内に存在する世界を脅かす禍根の根絶という新たな責務に取り組まねばならなくなったのです。

 国・電力会社による事故被害者への補償問題は、それが十分満足できるほど補償されれば電力会社はもちろん、国も潰れるほど原発事故は罪深く深刻なものであり、原発の非採算性には疑いの余地がないものであることが明白になりました。
国策の名の下に全ての反対意見を封殺してきた「原子力タブー」即ち「原子力独裁」は、これを支えてきた電力会社の資金的基盤の崩壊により、終焉に向かわさ れ出しました。これに伴い自然エネルギー開発の飛躍的拡大が望めるようになりました。新しい日本の将来には大きな期待が寄せられます。

日本の、そして世界の命運を左右する再稼動問題

平成23年12月21日
村田光平
 
 現在、緊急に必要とされるのは、もはや誰もが認めざるをえない「原発推進は国策となりえない」ということを、政府が確認し表明することだと思われます。原発推進の体制の抜本的見直しが急務の筈です。
 福島の原発惨事を他地域、他国で発生させないために、日本は全力を尽くすべきです。直面する原発危機の真相を世界に伝え、究極の破局を未然に防ぐために、人類の叡智を総動員することが求められていると信じます。
 福島原発の地下が「冷温停止状態」が通用しない大変な状態にあると取り沙汰されており、メルトスルーした溶解燃料棒がメルトアウトして地下でうごめいて いる可能性すら指摘されております。こうした人類未経験の危機の真相を世界に伝え、世界が究極の破局に至るのを未然に防ぐために、日本は歴史的責務を負う に至ったと言えます。
 いまだに毎時0.5億ベクテル(事故当初はその1600万倍)の放射能放出が続いております。恐ろしい放射能災害が見せつけつつある原発事故の真相をあ りのまま世界に伝えることは日本の責任です。世界もこれを求めております。核戦争防止国際医師会議(IPPNW。1985年ノーベル平和賞受賞)の世界大 会が来年8月広島で開催されますが、私もスピーカーに選ばれました。
 このような状況下での原発輸出推進の動きは、倫理の欠如を象徴するものとして内外から慨嘆されております。福島事故の罪深さとその責任の重大さが十分に 認識されておらず、しかも十分反省が見られないとする世論は高まりつつあり、今後衝撃を与える被害の実態が表面化するにつれ、現状を到底許さなくなると思 われます。ウクライナ政府の発表では、因果関係を医学的に立証することは困難であるものの、チェルノブイリ原発事故関連の疾病被害者は約260万人、この うち子供が62万人となっております。
 去る10月5日に開催された国際コロキアム(スイスチューリッヒ工科大学と共催)でスピーチを行い、(1)福島事故は近隣自治体、近隣諸国の脱原発志向 を強め、真の核廃絶のためのグローバルな運動を生む可能性があること(牧之原市現象)、(2)電源と水を断つことにより大惨事となる原発の脆弱性が示され 核テロの脅威が増大したこと、(3)核テロ、原発の大幅増設を計画する中国からの黄砂などの対策として真の核廃絶を急ぐ必要が生じたこと、などを指摘しま した。内外より手応えのある反響に接しております。
 今や国民の大半が求める送電分離及び総括原価方式の廃止による電力会社の地域独占体制の見直しは、いかなる抵抗が続けられようとも厳しさを増す一方の世論を前にして不可避になりつつあると思われます。
 11月17日付ニューヨーク・タイムズは「なおざりにされだした公益事業改革」と題して、“電力会社の見直しが、これまで裨益して来た広範な指導層の支 援を得て回避され出している”との厳しい記事を掲載し、多数の読者からの「腐敗批判」のコメントを紹介しております。再稼動問題にせよ、最近世間を騒がし た東電による黒塗り資料事件にせよ、いずれも国と電力会社が一蓮托生であることを示していると受け止められております。
 7年前に私は各党党首を始め各方面に「日本の命運を左右する電力会社」と題する小文を発信しましたが、黙殺され悲劇は起きてしまいました。今また、地震 原因説を封じ込めることにより、同じ過ちが繰り返されようとしているのではないでしょうか。既に目覚めている世論はこのようなことを断じて許さない筈で す。
「選択」12月号記事は、最近世間を騒がした東電による黒塗り資料事件は地震原因説を立証させないためであったことを示すものと伝えております。同資料の 公開実現により、地震原因説は決定的に有利になったと指摘されるに至りました。同説の確立は、全国にある原発の再稼動を実質的に不可能にするものです。
 福島事故発生後の対応振りについては、このたびの「事故終息宣言」も含め、内外より厳しい批判を招いております。日本の「国際社会における名誉ある地位」は脅かされるに至っております。名誉挽回が急がれます。深刻な課題です。
 来年5月頃には全ての原発が停止する見通しとなりましたが、原発の安全を保証する国民から信頼される機関が存在しない状況下での再稼動はありえず、日本 の脱原発は少なくとも事実上実現する筈です。これは「天地の摂理」だと思われます。国としては、それまでにこれを世界に発信し得る政策に早急に纏め上げこ とが名誉挽回の唯一の道だと信じます。
 再稼動問題が脱原発の鍵になりました。日本の脱原発は世界の動向に決定的影響を与えます。その意味で再稼動問題は日本の命運、世界の命運を左右する問題と言っても過言ではないと信じます。

2014年3月11日

3月11日を地球倫理国際日にするよう訴える共同声明  (英語原文はこちら) 
※この声明は、細川護煕元総理、Moritz Leuenberger元スイス連邦大統領、Ernst von Weizsaecker教授らから賛同されています。

 人間社会が受容できない惨禍をもたらしかねない科学技術は事故の可能性につき如何なる数値が援用されようとも完全にゼロでなければ使用してはならないというのが、福島の教訓である。

 放射能汚染をもたらす行動はほぼ永久に人類と地球に計り知れない損害を与えるものであり、倫理と責任に欠けるものとして非難されなければならない。

 日本は悲しいかな核エネルギーの軍事利用、民事利用双方の犠牲となった。福島の後、日本は放射能汚染に苦しむのみならず、事故の悲惨な結果の収束を図るために容易には克服できない諸問題に直面している。

 核技術は不可分であり、軍事、民事に分けることが出来ないことは明確に認識されている。日本は今や民事、軍事を問わない完全な核廃絶を世界に訴える歴史的使命を有するものと信じる。これも福島の教訓である。

 このような見地から次の提案を行うものである。
1.核拡散の防止と原子力発電の促進という両立できない使命を与えられたI.A.E.A.は改革されねばならない。
2.現存する原子力発電所の安全に対する国際的管理は強化されねばならない。  

 現在人類が直面する危機は文明の危機である。支配に立脚した力の文明を、命に至上価値を置き、協力に立脚した和の文明に転換しなければならない。

 人類が直面する危機の根深い原因はあまねく世界に広がった倫理の欠如である。未来の世代に所属する天然資源を濫用し枯渇させ、永久に有害な廃棄物と膨大 な債務を後世に残すことは倫理の根本に反するものである。自然と世界の資源は如何なる結果をもたらすかに配慮することなく利用されている。

 地球倫理の確立なくして、未来の世代に美しい地球を残せるような人類の文明を創設することは出来ない。

 このような考えからユネスコクラブ世界連盟(WFUCA)が呼びかけている国連倫理サミットの開催と地球倫理国際日の創設を強く訴えるものである。3月 11日を地球倫理ユネスコ国際日とすることを呼びかけたWFUCAの公式声明を全面的に支持し、国際社会に賛同を求めたい。同サミットはオバマ大統領の核 兵器のない世界のヴィジョンに向けて道を開くものと確信する。

 この地球倫理国際日は、紛争を解決する手段として決して戦争に訴えないとの決意を毎年新たにすることを可能としよう。

 核エネルギーを使用しない人類と地球の長期にわたる安全のために、ライフスタイルについて短期間の犠牲を払う覚悟が必要である。自然・再生可能エネルギーは倫理と連帯に立脚し、環境と未来の世代の利益を尊重する新しい持続可能な文明の基礎となり得よう。

福島が世界の究極の破局に発展するのを防ぐために(邦訳・要旨) (原文、反響はこちら
平成26年8月23日
村田光平
序言

 福島は世界の安全保障問題である。事故現場は制御されておらず危険な情勢の悪化が見られる。日本政府と東電は内外で信用を失っている。事故後3年半以上 を経ても日本は如何に対応すべきか途方に暮れて responseresponseresponseおり、この国家の危機がなんと東電の経営危機として扱われている。現在の事故処理の体制には重大な欠陥 があ り、強力な国際協力によりこれを抜本的に改革することが緊急課題となっている。もはや時間は残されていない。

世界の安全保障問題

 福島は原発の存在そのものが安全保障問題であることを示した。何故ならば、使用済み燃料を収めたプールの冷却システムが3日以上故障すればメルトダウン が起こりうるからである。このことは世界に存在する440基以上の原発について言えることである。福島が世界の安全保障問題であることは疑う余地がない。 現に、世界の究極の破局に通じ得る4号機の崩落をもたらす巨大地震が発生しないよう祈ることしかできないのである。
 政府と東電が主導する現体制の致命的欠陥を認識すれば、日本の将来が如何に危殆(きたい)にさらされているかに驚くであろう。
 原子力基本法は国民の安全を確保する責任の所在を明確に規定していない。
 事故後、原子力規制委員会が関係省庁からの独立させるために設置されたが、その事務局職員の「ノー・リターンルール」は最近無視されている。
 同委員会の委員がこれまで電力会社とつながりのない者から選定することも守られなくなっている。
 同委員会は公然と住民の安全委責任を持たないとの立場を明らかにしている。
 再び過酷事故が起こらないという保証はあり得ない。次に起こる事故は遥かに破壊的なものとなりうる。福島事故の際、風向きのお蔭で8割の放射性物質は海に放出されたが、風向きが逆であったなら東京は避難を余儀なくされたであろうことを忘れてはならない。

汚染水問題

 汚染水問題は全く解決の目途が立っていない。事態は悪化している。トリチウム以外の放射能核種を除去しうる水処理施設は何度も作業の中断を余儀なくされ、問題を抱えている。
 汚染されていない地下水を直接海に流すためのバイパスが最近完成したが、流出水量の減少に貢献していないことが判明した。山側からの地下水の海への流入量は余りにも膨大であり、このようにして地下水は大量に汚染されている。
 トレンチの水を凍らせる試みも成功していない。凍土壁の見通しは暗い。
 信頼できる専門家は毎日海に流出される汚染水は1000トン、内600トンは地下水とみている。これに加え、頻繁に派生する豪雨が現場に多量蓄積した
 放射性物質を海に洗い流している。最近の日本の気候の変化を反映した土砂崩れを齎す局地豪雨の頻発がこれに拍車を加えている。
 1年前、東電が3号機のがれきを撤去した際、放射性物質が風により四方八方に飛散した。東電はその放射線量を4億ベクレルと発表したが、実際はその10倍あったとみる向きもある。
 事故処理が重要な局面を迎える中で東電は職員の低いモラルに悩まされている。
 事故後3000名が退職している。深刻な作業員及び資金確保の問題は東京オリンピックにより深刻な影響を受けることとなろう。

太平洋を越える福島の影響

 2014年1月、カリフォルニアの住民から発信された記事が注目された。
 同記事は「ロシア国防省報告」なるものに言及しているが、次の抜粋が注目される。
[福島から放出された放射線量は全世界の核実験が放出した10倍に及ぶと専門家は見ており、テキサス、コロラド及びミズーリ各州の雪から危険なレヴェルの 放射線量が検出されたとの最近の報道は、米国がこの歴史的な制御困難に見える核惨事の最も厳しい影響に直面するであろうことを警告している。]
 ここに述べられていることは真剣な検証を必要としている。これに関連し、米国西岸地域に及びつつある福島の影響につき米国の専門家による調査が行われており、今秋中にも「NATURE誌」がその結果を掲載するといわれている。大きなインパクトを与えるものと思われる。
 日本は人類が経験したことのない事故がもたらした事態への対応に苦しんでいるが、国際的な支援を深刻に必要としていることは明白である。

新しい国際システム

 福島は原発の過酷事故により国家の危機に直面せしめられた政府の限界を浮き彫りにした。また、一国では事故処理をなしえないことも示された。
 一般に、政府の存続の寿命は数年であるが、原発事故は半永久的な対応を必要とするものである。メディアの協力を得て事故への対応に全力投球する責務から目をそらして、これを先送りするようなことはあってはならない。
 原発の過酷事故については一定の責務を果たすことを義務とする新しい国際システムを設立することを国際社会に提案したい。少なくとも次の2点が求められる。
1.事故対応に最優先で当たり、最大限の努力をする。
2.人類の英知を最大限動員するための国際協力を具体化する。

結語

 福島が世界の究極の破局に発展するのを防ぐことは国際社会の責務である。
 現在の事故処理の体制には重大な欠陥があり、これを抜本的に改革することが緊急課題である。日本は国際連帯と強力な国際協力を必要としている。

原発事故と地球倫理
(2014年10月14、15日 早稲田大学でフランスのLimoge 大学と共催で開催された国際シンポジウム“原発災害と人権”での総括発言。日仏双方により高く評価された)
村田光平
地球倫理と人権

 核エネルギーは本来倫理と責任に欠けるものであることを認識する必要があります。このことは核廃棄物の処理の問題と核兵器の危険が示しております。現在 人類が直面する危機の根深い原因は世界中に広がった倫理の欠如です。未来の世代に属する天然資源を乱用して枯渇させ、永久に有害な廃棄物と膨大な負債を後 世に残すことは、倫理の根本に反します。自然と世界の資源は、もたらす結果についてはお構いなしに開発されているのです。

 地球倫理の確立なくしては未来の世代のために美しい地球を残すような人類の将来の文明を創設できません。その文明は倫理と寛容に立脚した母性文明と呼べ るものであり、力と支配に立脚した現在の父性文明に取って代わらなければなりません。地球倫理の確立はこの必要な変革の前提条件です。

 地球倫理、母性文明、民事・軍事を問わない真の核廃絶は、三位一体の相互依存の関係にあります。国連倫理サミットは核廃絶への避けて通れない入口です。

 2005年私も出席したスタンフォード大学で開催されたOBサミットは、人権は未来の世代にも属するものであることを認めました。今必要な措置を講じなければ未来の世代は放射能汚染の無実な犠牲者となってしまうことは言うまでもありません。

求められる新たな国際制度

 日本は核の傷に苦しみ続けております。広島、長崎、そして福島を経験した日本は、民事・軍事を問わない真の核廃絶の実現に貢献する歴史的役割を担うに至ったと思われます。これこそ福島の教訓です。

 福島は原発の存在そのものが安全保障問題であることを示しました。従って世界の440余りの原発の国際的監視を強化することが必要となりました。さらに、関係国の原子力政策及びその実施制度に対する国際的監視を導入しなければなりません。

 福島は世界の安全を脅かしております。事故後3年半以上も経て日本は如何に最も効果的に対処すべきか途方に暮れておりますが、一国のみでは核惨事に対応 しえないことが示されたのです。原子力規制委員会はその独立性を担保する規則を無視しております。事故の原因を把握することなく川内原発の再稼働を認めま した。また、御嶽山の噴火は噴火を予見できるとする同委員会の主張が根拠に欠けることを立証しました。国民は同委員会は失格であるとみなしております。
 日本は他の如何なる国よりも原発の危険の実態を知らされました。福島事故後もその教訓を全く無視して世界の主流が原子力発電を促進していることは深刻な安全保障問題です。

 3・11事故後も日本は原子力発電を国策として推進するための原子力基本法の改正を行っておりません! いまや日本の統治能力が問われます。もし抜本的 な変化がなければ、世界の命運は電力会社によって左右されることになりましょう。このように実施体制に深刻な欠陥があることは明白です。早急に国際協力に より是正されねばなりません。

 世界は日本の経験から多くを学ぶことができます。原発事故に見舞われたすべての政府に対し危機の解決に最大限の努力を傾注すること、そして人類の叡智を 出来る限り広範囲に動員することを義務付ける新しい国際制度が必要とされます。原発事故の影響を最小限にするための新たな国際制度が必要です。福島は数年 の寿命しかない政府というものの限界をさらけ出しました。原発事故は事故処理に半恒久的な対応が求められるのです。

 過酷原発事故に見舞われた国の政府は、メディアの協力を得た陽動作戦により、事故対応に最大限の対応を行うという重大な責務を先送りすることも可能です。国際社会がこの新たな問題を取り上げることを訴える次第です。

福島危機への最大限の対応を

 原発の存在は極めて深刻な世界の安全保障問題であることは否定できません。もし巨大地震が現地で発生すれば、福島は地球規模の破局の端緒となり、翌日か ら東京からの避難が余儀なくされます。福島は忘れられる一方ですが、日本、太平洋そして地球に対する被害を増大しております。
国際社会は日本が事故処理に最大の努力を払っていないことに対し批判の声を上げております。必要とされる人類の叡智の動員は単なる目標にとどまっております。

 著名な科学者―ヘレン・カルディコット博士は、今年1月、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ委員長に対し書簡を発出し、未だ収束されない福島事 故を抱えた東京の安全を再確認するために専門家により構成される中立の評価チームの日本派遣を要請しました。IOCは公式の現状説明を根拠として未だこれ に応じておりませんが、この公式説明に対する不信は強まっております。このようなIOC の立場はIAEA(国際原子力機関)の立場と変わりません。

 IAEAは核拡散の防止と原子力発電の促進という両立できない任務を与えられております。IAEAは電力会社の利益を代表し放射能汚染の危険及び原発事故の影響を矮小化します。
 IAEAの改革は今や細川護煕元総理、モリッツ・ロイエンバーガー元スイス連邦大統領及びエルンスト・フォン・ヴアイゼッカー教授により提唱されるに 至っております。現存する原発に対する国際管理の強化も呼びかけるこの訴えは幅広く国際的に支援されることが期待されます。

 日本の面積は世界の0.3%ですが、地震の10%以上が日本で発生し、10%以上の火山が日本に存在します。しかも頻繁に津波も発生します。その日本に 何故54基もの原発が存在するのでしょうか。最近の御嶽山の噴火はそれがとてつもない誤りであったことに気付かせてくれるものです。日本国民はこのことに 目覚めつつあります。

 未来に希望を抱かせる新しい潮流が日本に生まれつつあります。この潮流は、東京五輪は不道徳としてその開催に反対するものと思われます。直面する危機の 悪化による太平洋の汚染の増大を通じて世界中に害を及ぼさないよう全力を尽くさなければなりません。そのためには東京五輪からの名誉ある徹退が不可欠で す。事故処理に国が全責任を負うことにならなければ福島の状況は悪化を続けることでしょう。

冒頭述べた通り国連倫理サミットは地球倫理確立への第一歩です。この確立こそ人権の最良の保証になります。そして核エネルギーの使用にみられる倫理の欠如に対する最良の治療です。               (了)



ホーム

inserted by FC2 system