細野豪志原発担当大臣殿


平成23年7月17日
村田光平
(元駐スイス大使)

拝啓
時下益々ご清栄のこととお慶び申しあげます。

初めてお手紙を差し上げる失礼をお許し願います。
浜岡原発の全国署名に関して古長谷稔氏よりお聞き及びかもしれませんが、呼びかけ人として協力させて頂いた元スイス大使の村田です。原発震災の可能性につき10年以上も前から警告してきたものの一人として筆を取らせていただきました。

このたびは原発担当相という歴史的責務を担われることなり、困難を極める職務の遂行に全力で取り組まれていることに心から声援をお送り申し上げます。

原発の再稼動問題は現実的な要請への配慮が求められることは理解できますが、福島事故の原因の除去が先決だとする住民の声が認められるに至ったことは本当 によかったと思います。九電による「やらせメール」は電力会社のあり方の見直しを求める大合唱を起こしつつあり、真部社長の辞任は当然のことです。

単なる儀式ではない厳正な「ストレステスト」が行われれば来春までに全原発が運転停止に至ると思われます。その間エネルギーに関する多くの誤った通説が綻 びることでしょう。再稼動が一切なくなることが、日本を救う「天地の摂理」だと信じます。再稼動容認のような実在する危険を直視しない人間社会の便宜主義 を認めないのが「天地の摂理」です。関電の大飯一号機の緊急停止は重要な警告です。

浜岡原発同様に第二の福島事故を起こしうると指摘されている原発が殆ど全てであることに恐怖を覚えます。独立していない保安院による基準審査が信用されな いものであると認識されていることからすればこの恐怖は根拠あるものと言える筈です。少なくともご提案された来春設立予定の新組織の厳正な判断を待つこと は
安全確保に不可欠の筈です。これまでの「原子力村」はこのような否定できない正論を無視してきたのです。目覚めた世論はこれなしに再稼動を赦さないと思われます。

この機会に日本は以下に述べる新たな課題にも取り組むことが望まれます。海江田経済産業大臣にもこの考えをお伝えいたします。

原子力安全・保安院の経産省からの独立が緊急の課題となっておりますが、日本としてはこの際,IAEAが核拡散の防止と平和利用の促進という両立できない任務を与えられている現状の改革を求めるべきだと確信いたします。

中国は原発の飛躍的増設を計画しております。私は中国から飛来する黄砂が放射能をもたらす事態を未然に防ぐ必要性を痛感して同封の小冊子を中国語と日本語 で作成し6年前から中国への発信を始めております。この問題意識は民亊、軍事を問わない核廃絶を追求する重要な動機のひとつになり得ます。

このたびの菅総理の原発依存からの脱却に関する意図表明は計り知れない意義を有すると信じます。8月6日の広島での記念式典で日本の総理大臣が世界へ向け てオバマ大統領のヴィジョンを高めて「核兵器も原発もない世界」の実現を訴える土台ができたと喜んでおります。これなくして日本の国際的信用は守れないと 信じます。同封させて頂いた広島、長崎両市長宛メッセージでも同様の考えを伝えてあります。

深刻な放射能汚染の拡大は日を追って国民の間に{原発憎し」の声を高めつつあります。こうした被害者の立場に立った内外への発信を福島の悲劇が他地域或い は他国で二度と起らないよう願う立場から続けております。去る14日、郡山で行われたフランスの国際日レセプションに脱原発を訴える私が10年ぶりに招待 されましたが、真意が通じることが確認できて嬉しく思いました(写真同封)。中国についても3年前に天津科技大学から講義の依頼があり、これに応じたとこ ろ名誉教授の称号を付与されました。米国も同封のルース駐日大使からの書簡に見られる通り、国連倫理サミット開催の呼びかけがオバマ大統領の核廃絶のヴィ ジョンの重要性を想起させるものとして、これを評価しております。さらにインドもアイヤール前石油・天然ガス大臣が私が常任理事を勤める地球システム・倫 理学会の同封の緊急アピールを評価し、同学会の「協賛会員」になられました。同アピールの反響は大きく既に9ヶ国語に訳されております。

福島原発事故の収束に向けて歴史的役割を果されている貴大臣の経験を世界が共有できるようにすることは日本の責務です。エネルギー問題についても指導力を発揮され、新しい時代の到来を踏まえたご英断をなされることを期待してやみません。

貴大臣の一層のご健闘とご発展を心からお祈り申し上げます。
敬具

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