野田佳彦内閣総理大臣殿

平成23年11月20日
村田光平
(元駐スイス大使)

拝啓

時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
新しい時代の到来とともに、ご決断を必要とする難題は山積し、これへの対応に日夜ご健闘されている貴総理に心から声援をお送り申し上げます。

2004年に始められた浜岡原発の運転停止を求める全国署名運動は、このほど漸く100万筆に到達しました。去る17日、全国署名連絡会他15の関係諸団 体代表とともに牧野聖修経済産業副大臣を往訪して、これを報告するとともに浜岡原発の永久停止の決断を要請する枝野幸男経済産業大臣宛書簡を手交致しまし ました。

その際私より牧野副大臣に対し次の諸点を述べました。

(1)「結果責任を問わない原子力村」に関して、福島原発事故の発生をもたらしたことの罪深さの認識と反省不足が指摘されるのは犠牲者の計り知れない不幸な立場を思いやる想像力不足と倫理の欠如に起因する。

(2)福島事故現場の地下でメルトアウトした燃料棒がうごめいていると取り沙汰されている現状は、事実ならば人類が経験したことのない深刻な事態であり、 人類の叡智の総動員を必要とする。「冷温停止」は地下に通用せず、それのみでは事故を収束し得ないことになる。その年内達成の見通しを発表して内外に事故 収束につき過度に楽観させているのは問題である。しかも現場からは大量の放射性物質の放出(毎時1億ベクレル)が止まらない。

(3)このような状況下での原発輸出は論外である。7年前に「日本の命運を左右する電力会社」と題する警告のメッセージを各政党党首を始め各方面に発出し た。今や、福島事故を他地域、他国で発生させないようにするのが日本の歴史的責務であるとの考えから「世界の命運を左右する電力会社」と指摘し出してい る。

(4)2日前、浜岡原発の運転の永久停止をもとめる牧之原市議会決議が成立したことに敬意を表するメッセージを西原茂樹市長に対し発出した。既にその影響 が原発近隣地域に拡大しつつあるこの動きは「牧之原市現象」とも呼べるもので、日本国内のみならず世界の脱原発に向けての記念すべき第一歩だと考えられ る。原発を所有しない国々も参加する真の核廃絶のためのグローバルな運動にも発展しうるものとして、去る9月29日、政治協議のため来日したMaurer スイス外務次官ともスイス大使公邸での午餐会で話し合うことができた。

(5)来年5月頃には全ての原発が停止する見通しとなったが、安全を保証する国民に信頼される機関が存在しない状況下での再稼動はありえず、日本の脱原発 は少なくとも事実上実現する。「天地の摂理」だと思われる。国としてはそれまでにこれを世界に発信し得る政策に纏め上げことが切望される。

(6)このほど米倉昌弘日本経団連会長に書簡を発出して、福島事故の対応を誤れば、東京が住めなくなり、日本経済が壊滅的影響を蒙り世界を震撼させること にもなりかねない可能性を指摘し、あらゆる立場の相違を乗り越えて経済界としても内外の総力の結集に貢献するよう要請した。


同席の関係諸団体代表からも浜岡原発震災が発生した際の被害予測の試算と公表、原発震災の可能性を実質的に認めている新耐震指針の明快な説明などを要請す る発言がありました。牧野副大臣はご多忙にも拘らず40分近くに亘り真摯に耳を傾けられつつ、理解ある応対をしていただきました。大変充実した会見であっ たことを関係者一同喜んでおります。

ご賢察の通り、浜岡原発の今後の帰趨は世論に対する電力会社全体の姿勢と深く結びついております。11月17日付ニューヨーク・タイムズは「なおざりにさ れだした公益事業改革」と題して、電力会社の見直しがこれまで裨益して来た広範な指導層の支援を得て回避され出しているとの厳しい記事を掲載し、多数の読 者から「腐敗批判」のコメントが寄せられております。上記(5)の脱原発政策決定が国と電力会社は一蓮托生でないことを明白に世界に示すために急務となっ たと確信いたします。

日本が上述の歴史的責務を果たすべき時の到来に当たり、貴総理の格別のご決断が求められております。

一層のご発展とご健闘をお祈り申し上げます。

敬具



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