社会派コミカル青春小説?!『フクシノヒト』
役所てつや・/ 先崎綜一・
(文芸社刊・U-30大賞受賞作品)

全国主要書店にて発売中!
定価1300円(本体)/四六判・269ページ

あらすじ

なんとなく大学を卒業し、安定を求めて役所に就職した堺勇治。
ところが配属されたのは、誰もが敬遠する「福祉課保護係」だった。

病気、高齢、障害といった境遇の中でもがき、時には亡くなっていくケース(生活保護受給者)たち。堺は自分の経験したことのない不遇な人々の世界に接し、大きなショックを受ける。
「自分にこんな仕事が勤まるんだろうか。福祉ってなんだ? 生活保護ってなんなんだ?」
大卒エリートの堺は反発、苦悩するが、保護係の厚井係長、志藤先輩、そして実務指導員・白井野典子ら、一癖も二癖もある先輩達の影響を受け、一つひとつ成長していく……。

などというあらすじですが、実際にはあっかるい読み物です)


目次

汚物溜まり/汚れ仕事/社会の底で/冷たい博愛/少女の季節/落とし穴/「はじまり」の始まり/エピローグ



(本文冒頭部分)

 がんがんと靴音が響く屋外の鉄の階段を、僕と係長は二階まで上った。階段には、ペンキが申しわけ程度にこびりついている。すぐ横に、隣のアパートの壁が迫っている。梅雨の空模様は、この住居密集地域では、ほとんど見えない。
 んっ
という声を、何度も僕は押し殺した。子供の頃にかいだことがある、蛆虫で膨れた動物の死体のような臭い。このアパートに来てから、ふとしたはずみのように断続的に襲ってきていた異臭は次第に強くなり、今は脳髄に響くように激しくなっている。
 厚井係長はこんな臭いにも慣れているらしく、いつもの困ったような笑顔で前を向いたまま、
「この奥、202だね」と、独り言のように言った。
 作業着を着た僕たちは、廊下に通じるドアを開けた。六月末の蒸し暑い曇り空の下、全身が汗で湿っていた。建物の中は、密度の濃い湿った空気に満ちている ようで、僕はそこに一歩踏み出すのに、少しとまどいを感じた。係長は、やはり困ったような笑顔のまま、さっさと歩を進めた。


(新人歓迎会の一こま)

 志藤さんは疾風のようにアルコール言葉を喋って、稲妻のように消え去った。
 僕は楽しいのか苦しいのか、とにかくハイペースで飲んで、かなり酔っていた。志藤さんの「熱」にうかされたようで呆然としていると、それまで肩を志藤さんのお尻で椅子代わりにされていた白井野さんが、
「どう、堺さん」と言ってきた。
「どうって、なんがです?」
「この雰囲気だよ、酔っぱらい」
白井野さんが、男っぼい口調でからかうように言った。
「これ、こんな感じなんですか、いつも」
「そ、飲み会なんかこんなもんでしょ。ってかさ、楽しく飲まなきゃ損だからなあ」
 白井野さんの前には、日本酒の二合徳利が、もう三本転がっている。顔色は白いまま。メガネの奥の目が、少しとろんとしているようではある。
「強いんですねぇ、お酒」
「強いよ。遺伝だね。二日酔い、したことなーし! まあそんなことよりさ、ひとまず栄光ある実務指導員として指導いたしますが、普通は新人が先輩のところ を回るもんなんだよね。今日はそんなこと気にしなくていいけど、あなた体育会系でしょ? そういう教育、受けてこなかった?」と、とても気になることを 言った。
「いえっ、さっきからそう思ってるんですけど、みなさんがどんどんやってきて……」
「だからぁ、今日は気にしなくていいからさ、もっと飲んで、あとで係長のとこにでも酒つぎに行きなさい! で、その前に私につぎなさい」
「はいっ」
 少し身を寄せて、日本酒をついだ。髪の毛の香りがちょっとした。香水など、無縁な人だと思った。
 途端に杯は空いて、僕はまたすぐお酒をついだ。途端に杯は空いて、僕はまたすぐにお酒をついだ。途端に杯は空いて……と、三回繰り返したところで、僕はおかしくなって笑ってしまった。笑い始めるとよけいおかしくなって、声が裏返った。
 白井野さんは、
「皆さーん、堺さんがおかしくなってますー」と手を挙げてみなに報告した。僕は、ちょっと恥ずかしく思いながらも、笑いが止まらなかった。係長が深刻な顔 で、笑い病だ、ツェツェバエに刺されたに違いない、などと言い出し、よけいおかしくなってしまった。
 白井野さんは、「治療薬!」と、杯の日本酒を僕の頭に伏せた。あつかんがぬる燗になって、僕の笑い涙と混じり合った。

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著者コメント

 本作品は、役所の福祉課・生活保護係で働いている原案者に取材し、関連書も参考にして、当方でプロットを作成し全体を「創作」したものです。原案者の実体験は皆無ですが、あくまで「現実から逸脱しないこと」をモットーに執筆しました。
 全体のカラーはエンターテイメント的で大変明るく、マンガチックと思えるぐらいにしていますが、文章表現はあくまで(大衆)文学的に、細部までこだわって書いたつもりです。
 しかしそうした要素ではなく、第一に「内容」を重視して頂きたいと思っています。登場する役所の保護係は、ある意味「理想」と言えるものかもしれませんが、作中で描かれる事々は紛れもない現実の姿であり、決して夢想でも遠い国の話でもないのです。
 福祉関係に携わろうとする人にとって、参考になる内容と自負しています。また、普段特に問題なく過ごしている若い方にも、今この日本でどういうことが起 こっているのか、考えて頂ければと願っています。「福祉」の等身大の姿を知って頂くことが、私の強い望みです。


新聞広告(朝日新聞2004.4月22日朝刊・横全段1/3)


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