元駐スイス大使:村田光平氏へのメールについて  

       ~ 「福島危機の根深さ」 ~

( 2017/09/14 受領: 浪江山林火災と請戸仮置場における火災関連の件 )

                               平成29年 9月22日
                                  放射線監視室 酒 井

 福島県の復興に関して毎回、貴重なご意見やご提案をいただき、厚く感謝申し上げます。
 さて、先日に戴いた標記メールに関して、事実内容等を確認した結果を踏まえ、下記のとおりご回答・お知らせいたしますので、必要な訂正等をよろしくお願いいたします。
 今後ともよろしくお願いいたします。

■ 戴いたメールの内容等
<原文のまま>
皆 様
ご報告した放射能汚染土壌の自然発火に関して福島県庁関係者から注目を要する下記情報が得られました。
1. 今年4月末、自然発火した場所は浪江のポリ袋置き場の請戸である。
2. チェルノブイリ事故処理も同じ問題を抱えており、昨年の夏、IAEAの関係者は福島で県庁、東電との間で対応に付き話し合った経緯がある。
その際、台風がもたらした洪水により、飯館村で飯館川が氾濫し、野ざらしで一時保管していた除染で出た放射性物質を含む草等が詰まったポリ袋(フレコンバッグ)が、河川に流れた事例が紹介された。
3. 農地にポリ袋に入れられて積み置かれている放射能汚染土壌の中間貯蔵所への移動は順調には
進展していない。

 この重大な問題は福島危機の根深さを示すもので、国としても県としても対応振りを国民に示す必要があると思われます。
 下記のネット情報が注目されます。
(その1) 福島県浪江町の山林火災は発生から12日目の10日、ようやく鎮火した周辺の大気中の塵に含まれる放射性物質の濃度が上昇していると判明8日 の放射性セシウムが浪江町で前日の約3倍、双葉町で約9倍に上昇していた。 (news.livedoor.com/article/detail/13044414/)
(その2) 浪江町の山火事は5月10日午後に鎮火した。福島県の発表によると「従前より火災現場周辺に設置してあるモニタリングポストでの空間線量率の 測定結果については、火災前と比較して大きな変動はありません」。また、帰還困難区域の双葉町や大熊町など周辺3カ所で8日、大気中を浮遊するちりの放射 性セシウム137の濃度が7日の約3~9倍と上昇したがいずれも「健康には問題ない数値」(毎日新聞)。
数値は9日時点で下がっている。(https://www.buzzfeed.com/jp/satoruishido/fukushima-yamakaji)
 村田 光平
(元駐スイス大使)



■ 確認した事実及び修正すべき事項等



1 火災現場関係

 ・4月末、浪江町では2カ所の火災が発生しているが、それぞれの時系列と対応は以下のとおり。
1.十万山付近(双葉町との境界:山林部)
 ・ 04/29(土) 16:24 覚知 同日の夜間にかけて消火を行い、一旦鎮火したかに見えたが、翌日以降も消火活動を継続し、05/06に鎮圧(制御可能な状態)、05/10 15:05に鎮火
 ・ 県では、山林火災に伴う放射性物質の飛散に伴う影響を把握するため、通常の放射線監視体制に加えて追加的なモニタリング(空間線量率・大気浮遊じん)を05/01から05/17まで実施した。
2.請戸(除染除去物の仮置き場:海側)
 ・ 04/29(土) 17:50 覚知 警察による町内パトロール中に火災を発見し、直ちに消火を行い、同日 20:41に鎮火。 その後の再発火等の事態は生じなかった。
 ・ メールでは“自然発火”とされているが、② 請戸(仮置場)の発火原因は特定されていない。
   一方、(1)十万山の山林火災については、当時天候が不安定で、落雷も実際に発生していたことから、立木への落雷によるものと推定されている。
 ・ メールでは“ポリ袋置き場”とされているが、正しくは、除染に伴って排出される除去土壌等の除去物を集積した「仮置場」である。 これらの仮置場の管理については、環境省の除染関係ガイドライン、県の仮置場等技術指針に基づき、適切に行われているところ。
 また、除染除去物を詰めた袋やそれを遮蔽する大型土のうは、いわゆるポリ袋ではなく、耐候性・遮光性など一定の耐久性条件を満たすポリプロピレン織布及びポリエステル又はポリエチレン織布などの丈夫な材質であり、その名称を正しくは、「フレキシブル・コンテナ」と言う。
(いわゆるフレコン・バッグは商品名であり、通称名である。)
 ・ こうした仮置場の設置基準、維持管理の具体的な内容については、環境省の除染情報サイト、福島地方環境事務所のHP等から正しい・正確な情報を入手いただきたい。

※ なお、電話では、自然発火ではないかとお話したところであるが、その理由としては、仮置場の設置容量に応じ、火災防止としてガス抜き管の設置が規定されているものの、フレキシブル・コンテナ内の除染除去物中の動植物腐敗等に伴う発酵熱の影響で火災発生の可能性はある。
 県内の仮置場での火災はこれまでに1件(H28/03直轄除染:浪江町加倉)、確認されているが、この火災は、仮置場に併設されたチップヤード(草木類 を裁断・粉砕してチップ化する場所)のベルトコンベヤ付近からの出火であり袋内からの発火ではなかった。環境省から当該施工業者に対して原因究明と再発防 止の徹底が指示されている。


2 チェルノブイリ事故~IAEA関係

 ・ 電話でお話したことは、今回のような大規模山林火災がチェルノブイリ発電所付近(ウクライナ)でも発生しており、対応に苦慮している旨が「今夏の」 IAEAとの定期協議の際に示されたこと。 (昨年の話し合いではない。:おそらく、本県のHP等の情報を引用したと思われるが・・・・)
 ・ その話し合いの引用が示されているが、飯舘村の仮置場から保管していたフレキシブル・コンテナが河川に流れ出たのは、昨年ではなく一昨年(H27/09)のことであり、流失したコンテナは、自衛隊等の支援もあり、その大部分は適正に回収されている。
 ・ お話したかったのは、話がすり替えられた“コンテナ流出”ではなく、“火災影響そのもの”のことである。遠い大陸(ウクライナの大地)でも大規模な 山林火災は発生しているが、火災による放射性物質の飛散は当然引き起こされる。しかし、ガスや大気浮遊じんの影響は比較的少ないことがIAEA関係者より 実体験を交えながらレポートされた。
 ・ むしろ、火災後に残った燃えがら・焼却灰が延焼箇所から流出しないように対策・事後モニタリングを行うことが重要との示唆があったところ。 県においても、関係機関の連携のもと、当該火災発生後に環境影響把握のためのモニタリングを開始している。


3 中間貯蔵施設への搬入・進捗状況関係

 ・ 「仮置場」の設置は農地に限らず、(国・県・市町村等の公有地など)地権者との同意が得られた場所であれば、可能である。
 ・ 除染作業に伴い排出されフレキシブル・コンテナに除去土壌等の除去物を保管・集積した「仮置場」から「中間貯蔵施設」への搬入が順調ではないとの指 摘がなされていますが、事実は下記のとおり。 ( H29/09/14 第497回 原子力災害合同対策協議会:国原災本部OFC会議資料 )
1.施設用地の確保状況
全体面積(約 1,600ha)= 民有地 ( 1,270ha:約80% ) + 公有地( 330ha:約20% )
                  → このうち、民有地の契約済は、約 590haで全体面積の37%
                                   (登記記録人は1,082人)
2.搬入実績 (H29/09/05までの実績値)
 ・ 大熊工区 浜通り6市町村+中通り7市町村から 計 93,203 袋(フレコン個数)
 ・ 双葉工区 浜通り7市町村+中通り6市町村から 計 85,741 袋(フレコン個数)の合計 178,900 袋となっており、フレキシブル・コンテナ1袋を約1m3 で換算すると、平成29年度1年間の計画搬入予定量 500,000 m3 の概ね35.6 % となっている。


4 ネット情報関連

○ H29/04/29に浪江町大字井手字沢山(十万山)で発生した大規模林野火災については、火災現場が帰還困難区域であり、周辺への放射性物質の飛散の可能性が懸念されたことから、県内及び全国版で報道された。
○ また、ネット上にも様々な書込み等がなされるとともに、一部根拠のない不安を煽るだけの情報が飛び交ったことや、当県と全く関係のない地方紙(紀伊民 報)のコラム欄に風評被害を拡大させるかのような記事が掲載されたことに対し、県では火災直後にホームページのトップページ(お知らせ欄)にこの林野火災 に伴う「周辺環境への影響が及んでいない」ことを掲載するとともに放射線モニタリングの状況等を県民及びマスコミに逐次、情報提供してきた。
※ 05/09 紀伊民報では、同コラムで陳謝する旨の記事を掲載済。また、ネット上も不安を煽る書込みだけでなく、放射性物質飛散のデマに惑わされないようにとの書き込みも見られた。
○ 福島県としては、既存モニタリングポストの監視強化に加え、火災現場近傍における空間放射線量率及び大気浮遊じん(ダスト)の測定を実施し、その結果のとりまとめは下記のとおり。


【追加モニタリングの状況・調査結果等】

1.空間線量率測定
 ・ 火災現場近傍において空間線量率をサーベイメータで1日2回測定。(5月1日~)
 ・ 5月5日から(b)(c)(d)の3カ所は可搬型モニタリングポストを設置し、連続測定を実施。
      (a)十万山登山道入口(双葉町側)、(b)山祇神社前(双葉町)、(c)石熊バス停跡(双葉町)
      (d)十万山登山道入口(浪江町側)
2.ダストモニタリング
 ・ 大気中に浮遊している「ちり」や「ほこり」を一定時間吸引しながら試料を採取し、核種分析を実施。火災発生現場の近傍で風向・距離等を考慮しなが ら、モニタリングポストによる監視測定を補完できるよう3地点で実施した。測定結果は下記のとおり (単位:mBq/m3)
 (a) やすらぎ荘(北北東方向、浪江町)   < 測定期間: 5月2日~17日 >
Cs-134 ・・・・ ND ~ 0.51(5/11)、 Cs-137 ・・・・ ND ~  3.59(5/08)
 (b) 石熊公民館(南東方向、双葉町)   < 測定期間: 5月1日~17日 >
Cs-134 ・・・・ ND ~ 3.59(5/12)、 Cs-137 ・・・・ ND ~ 25.47(5/12)
 (c) 野上一区地区集会所(南方向、大熊町) < 測定期間: 5月1日~17日 >
Cs-134 ・・・・ ND ~ 0.37(5/08)、 Cs-137 ・・・・ ND ~  1.35(5/08)


3.測定結果まとめ
 ・ 追加モニタリングは、鎮火(5月10日)後も5月17日まで継続し、これらの結果については、逐次(前日採取した試料の測定結果を翌日に)、HP掲載と報道機関への提供を実施。
 ・ その結果、空間線量率については周囲のモニタリングポスト及び追加モニタリングの値に大きな変化はなかった。(火災の前後で変動は見られなかった。)
   また、大気浮遊じんについては、5月8日、11日、12日に数値の上昇は見られたものの、当該環境下における実効線量当量(呼気吸入による内部被ば く)を算出したところ、最大値(05/12)においても0.008mSv/年であり、追加被ばく量限度である年間1mSvの1/125程度と推定され、直 ちに健康に影響を与えるものではない。

※ なお、県が試算した当該線量評価については、計算の前提として、観測されたダスト濃度が最大の環境下で(帰還困難区域であるこの場所に)365日 24hr常駐し、最大濃度の空気を吸い続けるものとしており、放射線防護の専門家のからは、過大評価(オーバー・エスティメイト)であるとの指摘を受けて いる。
 

【今後の予定・詳細調査の内容等】
○ 今後の予定等
・ これまでにも専門家の意見を聞き、関係者(県、JAEA、NIES等)により、今後の環境影響を把握するための詳細調査の進め方、各機関の役割等について打合せを行った。
・ 今後、これらの詳細調査を実施するとともに、林野庁が主導する動態調査結果も踏まえ、有識者の意見も聞きながら、火災による放射性物質の周辺環境への影響の評価を行うこととしている。

○ 詳細調査項目の概要 (県、JAEA、NIESが協力して実施)
1.飛散物の分析        (大気浮遊じん:ろ紙に付着した粒子の分析等)
2.空間線量率への影響調査
3.放射性セシウム流出挙動への影響調査 (沢水・河川の影響調査、土壌流出等)
4.森林内放射性セシウム分析状況への影響調査
5.火災時の放射性セシウム挙動の解析  (移動シミュレーション等)
6.火災による野生生物への影響調査





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