素晴らしき「黄金バット」


「黄金バット」。みなさんご存じだろうか。おそらく昭和40年代に放映されたアニメである。それ以前にはモノクロの映画もあるのだが。
 なぜに今さら黄金バットを取り上げるのか。それは私が黄金バットファンだからである。それ故みなさんにこのアニメの素晴らしさを知ってもらいたい。そしてなによりも、このアニメは「途方もなく」面白いのだ(ちょっと違った意味でだが)。
 では、黄金バットの壊れた世界へご招待しよう。



●登場人物紹介

 まずはこのアニメの大まかな紹介をしなければなるまい。
登場人物はだいたい以下のようなメンツとなる。

正義の味方側
黄金バット──全身黄金でドクロ(骸骨)の姿をし、表は黒、裏は赤のマントを付けている。武器としてつえ(シルバーバトン)を持っている。
ヤマトネ博士──人間側の正義の味方の偉い先生。
タケル君──その息子(小学生ぐらい?)。毎回登場する。
マリーちゃん──ヤマトネ博士をおじさまと呼ぶ。タケル君と仲良し。黄金バットを呼び出せる唯一の人間。
ダレオ君──なにもできないダメ男の象徴。タケル君たちの友達。途中から姿を消した。

悪の象徴側
ナゾー ──悪の頭領。真っ黒で目が四つあり、左手はカギ爪、下半身は円盤になっている。目から自在にビームを出せ、下半身の円盤で飛び回ることができる。
マゾ ──その手下頭。行動の先陣にいつも立つが、とりたてて何も芸はない。

 ストーリーは毎回同じような感じで、ナゾーの計画した悪巧みをヤマトネ博士らが追求し、最後には黄金バットに助けてもらい解決、というパターン。



●なぜなんだ!

 この物語にはいろいろな「不思議現象」が登場する。その不思議さが現代の価値観と奇妙なずれを生じさせ、それが面白さを醸し出している。「黄金バット」における“不可解現象”“そりゃむちゃな”といったことのごく一部を列挙する。

1.黄金バットとは何者なのか?
 黄金バットが何者かということは、主題歌にもあるとおり「コウモリだけが知っている」らしい。マリーちゃんが「こうもりさん、助けて」というと、黄金のコウモリが現れ、その後に黄金バットが現れるというのが普通の流れだ。
 ここで不可解なのは、なぜマリーちゃんだけが呼び出せるのか、黄金のコウモリと黄金バットの関係はなんなのか、なぜ黄金バットは正義のために戦うのか、
の3つである。説明は何もない。既成事実として初めから決まっているだけである。
 私が特に不可解に思うのは、なぜ黄金バットは、何も理由なく、戦い続けるのか、ということだ。その内実を想像すると、何か「無償の愛」といった悲しみと、価値観をまったく持たず、マリーの呼び出しに対しては徹底的に戦うバットの空虚さを感じる。

2.黄金バットがあまりにも強すぎる
「黄金バットは無敵だ」「黄金バットは不死身だ」という、これまた既成事実が完成している。
 黄金バットの武器というのは、実は特にないのだ。ひとまず「シルバーバトン」という、まんまな名称の銀色のつえをもってはいる。それでナゾーの部下たち をポカポカなぐったりするが、時にはこの同じシルバーバトンで巨大な恐竜をぶった斬りにしたりもできる。また、黄金バットの一声によって、シルバーバトン は「光線」か何かを発するが、それはどうもビームのようなものではなく、超能力に近いようなもののようである。なぜというに、その光線は相手を破壊するの ではなく、消してしまうからだ。シルバーバトンの光線は、あらゆるものを消し去ることができるようなのだ。ということは、それだけでもう無敵なのである。
 さらに黄金バットは、なぜか時に急激に弱くなり、恐竜などに何度も簡単に飲み込まれている。しかしそのたび、恐竜の腹を割いて出てくる。「黄金バットは無敵だ」と言いつつ。
 さらに黄金バットは、機関銃の弾はもちろん、時にはミサイルさえその身で平気で受け止めるが、ちゃちな刃物などから必死で逃げ回り、時には串刺しになったりする。しかしやはり「黄金バットは不死身だ」の一言で蘇ってくる。
 最終回に向けての話では、ある魔女の力を借りてナゾーが決戦を仕掛ける。その魔女曰く「黄金バットは不死身じゃ。しかしこの呪文によって永遠に眠り続け させることができる。これができるのは私だけじゃ」とのことで、黄金バットを棺に入れ、永遠の眠りにつかせた。しかし程なく、黄金バットは、なんの理由も なく再登場するのである。「黄金バットは不死身だ」との一言とともに。
 つまり、黄金バットは、まさしくかのナレーションがいう通り「強い、絶対に強い、我らが黄金バット」なのである。「絶対に強い」黄金バット相手に最後まで戦いを挑むナゾーの見識を疑わざるを得ない。

3黄金バットが不気味だ
 なぜドクロなのか。正義の味方が、なぜ骸骨なのか。
 彼はけっこうよく喋る。「ワハハハハ」という笑い声は彼が常習的に発するのだが、しばしばそれがさらにエスカレートし、「ワハハハハハハハ・ワハハハハ ハハハ」と二回繰り返すことがある。この時、二番目の「アハハハハハ」はちょい音程が上がっており、さらに「きちがい」めいた感じを与えてくれる。
 また例えば、「正義の味方黄金バット」「子供は子供らしくせい」「シルバーバトンよ、怪獣ホウムラーを葬れい」などなど、よく喋る。そして、笑っていて も喋っていても、彼の唇のない歯まるだしの口は、いつも閉じたままなのだ。怖い。あまりにも怖すぎる。こんな正義の味方は、他に決していないはずだ。

4.ヤマトネ博士の冷酷さ
 ヤマトネ博士は、どうやら世界的な博士らしい。その息子がタケル君であり、マリーちゃんに至っては、ヤマトネ博士を「おじさま」と呼ぶのだが、親戚関係 かなんなのかすらわからない。ましてや「ダレオ君」にいたっては、こんな名前を付けられたせいか、途中から姿を消している。
 それよりもなによりも、いくら世界的権威か知らないが、ヤマトネ博士の冷酷さが目についてしょうがないのだ。危険な事件・異常状況に、必ず息子のタケルやマリーちゃんを連れていくし。学校はどうなってるんだ、学校は。
 ヤマトネ博士の冷酷さを示す端的な例を二つ、紹介しよう。
 一つ。アフリカの川を遡上するために、博士は木を切り倒し、いかだをつくろうとする。その様子はナゾーに見られているのだが、それを知りつつもヤマトネ 博士曰く「さあ、タケル、もっと早く切りなさい」「はい!」。........お前も切れよ。スーパーカー(ヤマトネ博士らの乗る円盤。決して「カー」で はない)の運転もだいたいタケル君がやっているし、一度、タケル君が車を運転しているのを見た。警察につかまるぜ。
 とにかく、しんどいこと、危険なことは、すべてタケル君の仕事なのだ。 
 二つ。あるいわくあるダイヤを僧侶から手渡されたタケル君とマリーちゃん。一人の男の子と知り合って、足に傷を負いつつ逃げるタケル君。最後には、タケ ル君とマリーちゃんは崖に真っ逆さまに転落していく。「お父さんにこのダイヤを届けてくれ」との言葉を残して。「よーし絶対届けてやるぞ」と男の子。
 届けられたヤマトネ博士は、さっそくそのダイヤを分析し、それがナゾーの秘密基地の設計図だとわかる。「うーん、君はいいものを届けてくれたね。さっそ く行ってみよう」。男の子はあわてていう。「あ、その前にタケル君とマリーちゃんを助けてあげてよ」。ヤマトネ博士は冷淡にこういうのみである。「う ん」......。頭おかしいぜ。

5.機械の操縦が簡単すぎる
 上に、小学生とおぼしきタケル君がスーパーカーを運転したり車を運転したりしているのは示したが、「そりゃー運転できるだろうなあ」と思えるほど、黄金バットに出てくる機械はみな操作が簡単である。
  スーパーカーが底なし沼に着陸してしまった時のこと。ずぶずぶ沈んでいくスーパーカー。「よし、タケル、スーパーカーを回転させてフルスピードで上昇する んだ!」「はいっ!」といって、タケル君は、ボタンを一つ押した........。そして無事スーパーカーは底なし沼から脱出するのである。
 ボタン一つかよ。
 もう一例。ナゾーに「いつまで黄金バットを倒すのに時間がかかっているんだ」と起こられた部下のマゾ(しかしそれにしてもこの名前も...)。「私思う に、コンピューターに分析させたらいいかと」。「よし、さっそくやれ」といらだたしげなナゾー。マゾは以下の手順をふんだ。 
 「まず黄金バットのデータを入れまして」.....ボタン一つ押す。
 「次に世界中の悪者のデータを入れまして」....ボタン一つ押す。
 「そしてこのボタンを押しますと、2秒で答えがでるのでございます」
 実際にはその答えが出るまで、私の計算では8秒はかかっていたが。このコンピュータ、マゾによればひどくデリケートな機械だそうである。

6.ナゾーが味方を殺しすぎる
 ナゾーというのは、宇宙人か人間か怪物か、もしや機械なのか、最後まで何者なのか明かされない不可解な存在である。黒い見かけも4つある目も、あれはコ スチュームなのか肌なのか、そんなことすらわからないのだが、さらに不思議なのは、「失敗したら殺す」という掟が存在することである。ナゾーが敵を殺した のは実は見たことがないのだが、味方は実に容易に殺す。まあ、一話につき二人は殺されると見ていいだろう。なぜ自分の力となる味方ばかり殺し、敵を一人も 殺せないのか。そして何よりも黄金バットやヤマトネ博士退治の最大責任者であるナゾーの責任は問われないのか。

7.ナゾーの部下がアホすぎる
 これは本当になぜかわからないのだが、マゾはまあ別にして、それ以外のナゾーの部下はみなアホウ扱いとなっている。しゃべり方が田舎の方言みたいで、ノウタリンな設定になっているのだ。そんな部下だからこそどんどん殺してもいいのだろうか?

8.だいたいの不思議な出来事は「放射能」のせいにされる
 この時期は、原爆が日本に落とされ、終戦となり、そして復興を遂げつつある時代である。放射能には日本人は過敏だ。だが、この時代、放射能がどういうものか、普通の人はよく知らなかったらしい。
 黄金バットでは、しばしば放射能が大事な役所として登場する。例えば「黒雲をつくる放射能・ドグマロン」とか「放射能が水素原子と反応して水になるので す!」とか「氷をつくる放射能」とか「ウラニウム鉱山があって、そこに行くと病気が治る。それが放射能のせいだって最近わかった」とか。
 う、うううむ。
 当時放射能は、「なんでもできる万能の不思議物質」だったのだろう。

9.なぜ黄金バットは落とし穴に落ちるのか
 黄金バットは、なぜか大変な回数、落とし穴に落ちている。空を飛べるのに。爆弾受けても平気なのに。そしてその落とし穴の底には槍が無数に立っており、黄金バットの体中が滅多突きにされたこともあった。つまり、本気でどすんと落ちているのだ。
 しかしもちろん、次の瞬間には、その槍は自然と抜け落ち「黄金バットは不死身だ」で済んでいる。
 いやしかし、なぜ彼はああも落とし穴に落ちるんだろう。せめて落ちる途中で気づけよ、そして飛べよ。

10.ナゾーのはくナゾの言葉
 ナゾーは、だいたい以下のような場面でナゾの言葉「ロンブローゾー」を口にする。
・登場の時「ロンブローゾー」
・退場の時「ロンブローゾー」
・驚いた時「ロンブローゾー」
・喜んだ時「ロンブローゾー」
・腹を立てた時「ロンブローゾー」
 .....わからん。おまえの合いの手が「ロンブローゾー」なだけなのか? にしても、意味なく言いすぎではないのか。登場、退場の時はわかるが、なんで「喜んだ時」にまで言うのか。セリフに困ったとき、口に出しているとしか思えない。


 ちなみにロンブローゾーとは、ナチス時代の狂った科学者だ、???という未確認情報がある。

**友達から有力情報がきた。ロンブローゾとは以下のような人間のことだったそうだ。

チェザーレ・ロンブローゾ
19世紀のイタリアの医学者。精神医学や法医学などの多くの分野で業績を残した才人。
1870年刑務所で、ある強盗犯の頭蓋骨を調べるうちに、猿には存在するが人間にはめったに見られないという中央後頭窩など多くの異変を発見。
その後、彼は400個近い犯罪者の頭蓋骨を解剖し、約6000体の体格を調査した結果、隔世遺伝による生来性犯罪者という考え方を生み出した。

また、知人の猫井さん(バンドのヴォーカリスト、イラストレーターなどしてる女性)から、「ダレオ君」の本名は「どこのだれお君」だとの情報あり。
うーむ、ほとんど人権侵害な名称設定。子供なのに。


  きりがないのでこの辺にするが、なにはともあれ、疑う余地なく史上最強のヒーローである黄金バットを巡る物語は、以上のような次第でカタストロフのまった だ中に存在し、それゆえ本気で「なんでもあり」なのであって、それが本作品の強烈な魅力となっていることに違いはないだろう。
 よく言えば、時代の大らかさが感じられるのだ。こんな壊れきった世界、見ていて頭を使う意味がないから、実に楽しく黄金バットの世界に身をゆだねられるのである。

 機会があればぜひ見ていただきたいと思う。今の時代に再放送するには問題がありすぎるのが残念だが。

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