■原発問題は何も改善していない
―― ここ最近の猛暑のため、海外メディアから真夏の東京で五輪を開催することに疑問の声が上がるようになっています。しかし、もう一つ忘れてはならないのが福島原発問題です。村田さんは以前より原発問題は終息していないとして、東京五輪の開催に反対してきました。
村田 福島原発をめぐる状況は、悪化こそすれ改善はしていません。中でも深刻なのは、福島第一原発の2号機とその脇に立つ排気筒の問題です。
 京都大学名誉教授の竹本修三氏は、震度7クラスの地震の発生は避けられず、その場合には2号機の建屋は崩壊し、膨大な放射能が拡散され、東京にも人が住めなくなってしまう可能性に言及しております。
 また、竹本氏は、中途半端な形で保持されている核燃料デブリが、格納容器の底に溜まった水中に急速に落下したらどうなるかということを、早急に検討する必要があると訴えています。
2号機のすぐ脇にある排気筒にも問題があります。この排気筒は高さが120メートルほどありますが、2013年に調査をしたところ、地上66メートルの接 合部で8カ所の破断や変形が見つかりました。これは2011年の事故時に起こった建屋の水素爆発などの影響と見られています。2017年に調査した際に も、上から45メートル付近の支柱に新たな破断が1カ所見つかりました。
 また、この排気筒では2011年から毎時20シーベルトを超える高線量が観測されており、いまも排気筒の周囲は危険区域となっています。
 この排気筒について、東京電力の元社員であり原発で作業員の指導や放射線管理者を務めたこともある桑原豊氏は、週刊誌のインタビュー(『週刊女性自身』 2016年12月13日号)で「心配なのは排気筒の倒壊。中に溜まっている100兆ベクレル以上とされる放射能に汚染された粉じんが、大気中に一気に噴き 出します」と述べています。これは広島原爆(87兆ベクレル)を遥かに上回るものです。
 そのため、一刻も早く排気筒を解体する必要があるのですが、100メートルを超える構造物を遠隔操作で解体する工事には前例がありません。そこで、東電 は福島県の企業が提案した技術をもとに新たな装置の開発を進め、2018年度中には上半分の解体の着手を目指すと言われています。
 放射能による健康問題も依然として深刻です。東京工業大学特任教授の入口紀男氏は、「周産期死亡率」が関東や東北で有意に上昇していると述べています。 周産期死亡とは、妊娠満22週以後の死産と、生後1週未満の新生児死亡を合わせたものです。放射能汚染の影響は甲状腺癌だけではないのです。
 入口氏はこの点を諸外国に対して伝えるべきだとしています。特に妊娠している女性に対してそのことを告知しておくことが必要だと思います。

■放射能まみれの東京五輪を返上せよ
―― 海外では放射能の危険性を理由に東京五輪に反対する動きはありますか。
村田 国際社会では当初から、安倍首相が原発事故について「アンダーコントロール」と宣言したことに疑問を呈する声があがっていました。たとえば、ヘレ ン・カルディコット財団の理事長で医者でもあるヘレン・カルディコット氏は、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長に対して、東京五輪開催決定直 後から子供たちの放射能被曝を憂慮する手紙を送っています。
 今年の7月には、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のドイツ支部が“Tokyo 2020―The Radioactive Olympics”という声明を発表しました。IPPNWは1985年ノーベル平和賞を受賞した世界的に著名な組織です。
 この声明文では、東京五輪の野球・ソフトボールの試合が福島県内で行われることや、年間20ミリシーベルト以下圏内への住民帰還が進められていること、 さらに東京五輪のために120億ユーロ(約1兆600億円)を費やす一方で帰還を拒む住民への援助が打ち切られたことなどについて批判がなされています。
 そして、放射能に脆弱な子供や女性たちを守らなければならないとし、同時に脱原発を進め、自然エネルギーを促進することの重要性を訴えています。
 東京五輪の安全性の再検証を求める各方面からの要請を受けているIOCとしては何らかの対応をしなければならないと思います。IOCがこのまま何の処置もしなければ、批判も強くなっていくはずです。
―― 日本国内からも少しずつではありますが、東京五輪に反対する声が聞かれるようになっています。
村田 私がその点で注目しているのが、小泉純一郎元首相と小沢一郎自由党代表が脱原発へ向けて協力を確認したことです。特に小泉氏は以前から「トモダチ作 戦」で被曝した米軍兵士の救済に取り組んだり、安倍首相のアンダーコントロール宣言を「大嘘」だと公然と非難しております。小泉元首相や小沢自由党代表は 東京五輪については明確な立場を示していませんが、彼らの動きは福島隠し利用されていると内外から批判されている東京五輪の中止に向けた第一歩になりうる ものだと思います。細川護煕元総理及び鳩山友紀夫元総理もこのような動きの「理解者」です。
―― 東京五輪を認めるということは、アンダーコントロールという嘘を受け入れるということです。政治の嘘を認めてしまうようでは、日本の将来は暗いと言わざるをえません。
村田 最近の日本では不道徳や無責任が蔓延していますが、老子が「天網恢恢疎にして漏らさず」(天道は厳正で、悪事を働いた者には必ずその報いがある)と いったように、天地の摂理(歴史の法則)は不道徳の永続を許しません。全ての独裁は必ず終焉せしめられます。現状が非常に厳しいことは確かですが、それで も私たちは希望を持って東京五輪返上、脱原発を訴えていくべきです。
福島の教訓「経済重視から生命重視へ」は全く無視されており、その実現については余り男性に期待できないことを日本の現状は示していると思われます。女性の果たす役割に益々期待が寄せられます。
(8月1日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)



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