地球システム・倫理学会研究会(2014年5月24日) 講演録

国際社会の信頼を回復するために
常任理事 村田光平(元駐スイス大使)


(はじめに)
村田:私ちょっと喉をやられておりますので、マイクを使わせていただきますが、一番後ろの方聞こえますか。今日はピンチヒッターということでお願いを受けまして、そしてにわか作りでございますが、お話を50分程度させていただきます。
 私の立場はあくまでも人道主義と平和主義と、それに徹しておりまして、そのせいかまだ消されておりません。言う内容は、大変危険な事をずっと言い続けて きております。そして今後も、実は覚悟しているところであります。そして全方位の発信を続けております。3.11の前に私は本を書いて、また講演などで全 てを言い尽くしたこともあり、その後の論議には巻き込まれなくて、「この期に及んで原発を容認するのは不道徳である」と、その一語で片づけてきておりま す。しかしながら、福島の教訓は忘れ去られようとしており、今更ながらまた議論の一から始めなければならないと思わせるのが現実だと思います。
 そういう中で、私は3.11の前にも後もですが、文明論の立場から原発問題を取り上げております。少ないことです。服部会長の学会にお招きいただいて、 非常に私は喜んでいるところです。そして先ほど言及された学会の緊急アピールにしましても、その成果が昨年のユネスコクラブ世界連盟のフロレンス宣言で、 「3.11を地球倫理国際日にする」とされ、これを国際社会に働きかけるという決定が行われました。これに立脚して、今年の3月にニューヨークでの同世界 連盟の総会に出席し、2つのスピーチを行って参りました。その成果がまた後ほど触れますが、いくつか見られます。このようにこの学会の将来の役割は非常に 重要であるとことを冒頭に述べさせていただきます。


1.失われた「国際社会における名誉ある地位」

 今何が起こっているか、これにつきましてご理解いただいて、それからこの皆さまにお配りしたレジュメに入っていきたいと思います。実は今月の21日、3 日前ですか、所感を発表いたしました。取りあえずは「天地の摂理が動き出すことが予感されます。マスコミの責務について書簡をお届けします」として、主 だった大手のメディアの編集局長クラスに送ったわけです。その所感の内容についてまずご披露したいと思います。
「避難計画の策定の要請は100%の安全が保証されないことを立証するものであります。確実に安全ならば、そもそも避難計画自体必要ありません。エネル ギー基本計画に記された、『国は前面に立って原発再稼働を進めていくが、原子力災害対策は地方自治体の責任』と書いてあるわけですが、これは国の無責任を 立証するものです。自治体において責任の取りようもない大事故の発生は、福島以来もはや想定内です。福島の教訓はどうなったのでしょうか。再稼働を許さな いことが、国民の重大な使命です。再稼働反対の全国連携が始まることが予言されます。福島は世界の命運と結び付くに至りました。日本の、そして世界の安全 保障は事故処理の終息いかんにかかっております。これが最大の安全保障問題です。日本がテロ対象国となる道を開く、集団的自衛権どころではありません。4 号機の燃料棒を取り出す作業は、現在1日8時間作業です。現場からすら、何故、可能なのに24時間作業をして、夏中に完了しないのかと、声が上がっており ます。放射能汚染の拡大を招く加害国となりながら、その認識を持たず全力投球を回避し続ける現状を、世界は放置するはずがありません。ますます厳しい対日 批判に接しております。国際オリンピック委員長に対して著名な科学者より、東京の安全性の再調査のための中立委員会の日本派遣の要請がすでに行われてお り、これへの支持の動きが広がりつつあります。世界が注目する4号機ひとつを取っても、巨大地震が発生しないことを祈ることしかできないのが現状です。汚 染水問題の事態悪化は改善の見通しもなく、ますます深刻です。東京オリンピック開催は無責任極まりなく、五輪返上は不可避です。事故処理に全力投球するた めの名誉ある撤退があるのみです。早急の決断が必要と確信いたします。マスコミの協力が不可欠となりました、ご理解とご支援をお願い申し上げます」。以上 です。
 これが所感でして、これを今拡散しつつありまして、賛成するメールが入ってきております。ちなみに小出裕章先生も賛同のメールを送ってくださいました。 現状は無責任、不道徳過ぎますね。だからこそ現在、「地球倫理、地球倫理」とわが学会も叫んでいるわけですが、そういう現状の中で原子力村、すなわち原子 力独裁は反省をしないで巻き返しをする。これが全く軍国主義と同じである。反省をしないで巻き返しを行う点で一致することを私は指摘しております。
 そういう中で、福島事故が無かったかのように事態は進んでおり、多くの国民が無力感を味わって、絶望感を味わいつつあります。そこで私が強調しているの が、哲学としての天地の摂理です。天地の摂理。「天の摂理」は、神を思わせ宗教的な響きがあり、父性文化です。父性文化と母性文化のバランスの必要性を主 張しておりますので、母なる大地も入れて「天地の摂理」という言葉を数年前私は作りました。この天地の摂理は不道徳な状態の永続を許しません。全ての独裁 は終焉せしめられます。この天地の摂理とは、哲学が究明する歴史の法則です。おごれる者久しからず、努力すれば報われる、悪事は必ず露見するなどの天地の 摂理からしますと、今の不道徳な状態は必ず終焉せしめられます。このように考えることによってしか、われわれは希望を持つことはできません。この天地の摂 理の私の読みがこれまでのところ、原子力問題に関しては全部当たってきました。それだけに、私は現状を前にして悲観してないわけです。先ほどの所感の発信 の冒頭に、天地の摂理が動き出すことが予感されると書きました。それは意外に早く動き出す、そういう感じがするわけです。
 いろいろ原子力独裁は募穴を掘っております。一例を言えば、この特定秘密保護法にしても、私の所感で批判しました集団的自衛権の行使にしても、これらは 国民を立ち上がらせる大きな要因になりつつあるということです。こういうのを私は天地の摂理が動き出したととらえます。そういう中で、2日前の出されまし た、福井地裁の再稼働差し止め判決は甚大な影響を持つと考えます。私は見通しを間違っても構わないとおもいながらよく断言しますが、今後、日本の原発の再 稼働はあり得ないと間違っても構わないから私は断言するわけです。
 多くの人が感動したこの判決の文章を一つだけご紹介しますと、よく原発の関係で電気料金が上がるとか、国富が流出して喪失をしてしまうとか、そういう議 論があるわけですけれども、この点について、『たとえ本件の原子力発電所の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失と言う べきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富である。これを取り戻すことができないことが、国富の喪失であると、当裁判所 は考えている』とあります。これは私がかねてから主張したところでありまして、要するに、福島の最大の教訓は、経済重視から生命重視への転換と言い続けて いるわけですが、判決はこれと同じこの認識に立っているわけです。
今の福島の原発の被害者の恐ろしい不幸さ、惨めさを考えれば、到底そういう可能性をはらむ再稼働など言えない筈です。浜岡原発の再稼働が要請されました。 これについては、私は断言しております。これは日本的ならざる者の力によるものであると。これは今日のレジュメの2.をご覧ください。


2.「奇妙な独裁」――国際原子力独裁

 私は「奇妙な独裁」ということで、国際原子力独裁というものを取り上げております。これは2000年にフランスのヴィヴィアンヌ・フォレステールという 女性の作家が『奇妙な独裁』という本を書きまして、大変評判になりました。その趣旨は、これはグローバリゼーションとの関連で指摘された点でもあります が、要するに自らは政権は執らない。しかし政権の座にある者に対して、100%の影響力を行使する。これが奇妙な独裁です。まさに原子力独裁そのものであ ります。
 そしてこの原子力独裁との関連で、私が今、指摘しているのは、福島事故があたかも無かったかの如く教訓が忘れている。要するに福島を切り捨て、これに日 本の原子力村は同調してついて行っている。そして私が警告をしているのは、今始まったのは福島切り捨てのみならず、日本切り捨てであるということです。そ してその日本切り捨ての傍証として私が挙げるのは、1月にネット上、現われましたMIT報告であります。MIT(マサチューセッツ工科大学)、世界の最高 権威のMITが福島事故程度では住民の避難は必ずしも必要ではなかったのではないかという趣旨の研究を出していることが年初に報ぜられました。世界はびっ くりしたわけです。また、つい2、3週間前には、ニューヨークタイムズの編集部が原発容認に傾いたということが報じられました。このようにある意味では、 原子力独裁の影響力は無限ともいえる力を持っている。だからこそ、私は先ほど天地の摂理ということを取り出したわけですが、私は発信の文章の中でこのよう な強力な原子力独裁の前には、その道を遮るものがある。それは何か。地震であり、津波であり、破局的大事故であり、そして精神的諸価値、なかんずく倫理、 道徳であると指摘しております。そして私はこれが天地の摂理で、この天地の摂理は必ず動き出すというふうに考えて未来に希望を抱き続けているわけです。
 そしてこの所感の中で、もう一つ重大な指摘をしたと思っております。それは安全保障の専門家が、私が3.11の前から言い続けている、日本にとっての安 全保障問題は原発の存在である。そして原発なるものは、核兵器に劣らず危険であると。実はこの点について「核兵器以上に危険である」と書きましたら、原子 力村の重鎮から「それだけは改めてほしい」と頼まれました。いいですよ、「劣らず危険である」と、そういう文章にした経偉があります。
 そして原発そのものが安全保障であるということは、小学生でもこの説明を聞けば分かるはずです。今、全て原発は燃料プールを持っている。そこは何も防備 されていない。燃料棒が冷却プールに置かれているわけです。そしてこれが重要なことですが、冷却がとまれば、3日で全てメルトダウンするという、この厳然 たる事実です。この現状が安全保障でないという安全保障専門家がいれば、私はそれを専門家に激しい言葉で反論したいと思います。先ほど、「集団的自衛権ど ころではない」と言ったのはその趣旨です。 
 そして特に軍事力を行使して殺傷に走ればテロ対象国になる道を拓くことになるわけです。これだけは絶対に許してはならない。それが私は国民の総意だと信 じております。このテロの対象国への道を開くという点は、何故かマスコミには一切表れません。これほど理解しやすい反対理由はないと私は思っております。


3.東京オリンピックからの名誉ある撤退

 それからこの所感では、オリンピック問題について取り上げました。今、震度6強の地震が地元で発生すれば、4号機、すでに爆発して震度6度強で崩壊する 4号機、それによってもし燃料棒が大気に触れればジルコニウム火災が起きて、このジルコニウム火災は水では消せない。しかしそれを消すものを、いまだに日 本は持っていないのです。私は東電と政府のヒアリングに4回、出席して確認しております。従ってそのような地震が起きないようにと、ただ祈るだけができる ことなのです。それにもかかわらず、危機感がなく、いまだに放射能が放出を続けて、日本は加害国になっている点についても、認識がありません。そういうこ とに対して、海外からの批判が目に見えて強まっております。
 一例を申しますと、5月7日に桜美林大学で原子力問題、日独国際原子力問題シンポジウムが桜美林大学で開かれまして、私もパネリストとして出席しまし た。そこでのドイツの代表が、極めて厳しく今の政府と東電の事故処理への対応を批判しました。これは先ほど所感で説明しましたように、日本は事故処理に最 大限の対応を行っていないということが、完全にもう外国に見破られているわけです。その一例が4号機からの燃料棒取り出しです。これは今8時間シフトで す。これを24時間シフトにすれば、夏の終わりまでに完了するということを、現地の関係者から年初より私に何度も電話がありました。そしてそれを関係者に 全部伝えました。2日前、東電に確認しましたら、相変わらず8時間です。これが傍証ですね、最大限の対応をしていない非常に明白な傍証です。
 旧ソ連のチェルノブイリは、事故後7カ月で石棺を作り上げました。30万人を動員して、3万の兵士を動員し、そしてなんとか放射能の流出を止めた。日本 はそれができていない。そして汚染水問題は最近の報道の通り、ますますお先真っ暗である。凍土壁については原子力規制委員会も説明不足だといって検討を先 延ばしにしている中で、私は詳しい人から電話がありまして、維持管理は不可能であるということで、凍土壁は決定的に駄目ではないかと思うに至りました。そ もそも汚染水問題が起きたのは、馬淵総理補佐官が、菅総理と決めた地下水を止める遮水壁の建設に東電も合意していたのに株主総会の前に突然、それを反故に して、その計画はご破算になってしまったからです。
 何故こういうことが起きるか。それは事故処理が国策化されていないからです。電力会社に委ねられている。当然資金も制約を受けるわけです。現地で働いて いる下請け会社の立場からしますと、今、非常にこの障害となっているのは、東電の会社としての財政改善アクションプログラムです。これによって倹約を迫ら れるのです。そうするといくらアイデアを上に上げても、みんな資金不足で断られるのです。事故処理を国策化しない限り、満足のいく事故処理はできないとい うことはもう明白になっております。電力会社任せではいけないということです。要するに日本が直面しているのは、国家の危機です。電力会社の経営危機では ない。そのように認識を抜本的にあらためない限り、現場の事態も悪化を続けることになると思います。
 そしてオリンピックについて、その反対をすると袋叩きに遭うのが今の日本です。もちろんオリンピックをやれるに越したことはないわけです。しかしもは や、どんどん情報が海外に伝わっております。オリンピック国際委員長に対して、ヘレンカルディコットさんという著名な科学者が書簡を送りました。日本に東 電、政府の息のかからない専門家から構成される中立の委員会を派遣して、安全性を再確認を行ってほしい、日本に行く競技参加者の健康が心配であると、そう いう趣旨の手紙です。
 これに対して応援の動きが活発化しつつあります。もしこの要請に国際オリンピック委員会が応じない場合には、厳しい批判が国際オリンピック委員会に向け られることは必定だと思われます。そしてここが重要なポイントですが、このような情勢の中で、もしその調査団の来訪とその結論が出るのを数年も待って、駄 目になった場合の日本が被る損害は想像できないものがあると思います。
 先週あるアメリカの自然解決財団との電話インタビューで1時間にわたって、会長、理事長、事務局長と4人で話し合いましたが、その中で東京の住人とし て、今の日本の放射能汚染の事態の悪化を防ぐことに重大な関心があるが、これは可能である、しかしそのためには最大限の対応が必要であると指摘しました。 そしてその最大限の対応をするためには、これと両立しない東京オリンピックは返上をするのが正解であるの趣旨を述べました。私の言う「名誉ある撤退」とい うのはその趣旨です。今、日本に対して海外が最も不満と思っているのは、こういう事故を起こしながら最大限の対応をして、その被害が地球に大気に海に及ぶ のをとどめることに最大限の努力がなされていない無責任さです。これへの批判がどんどん高まっております。最大限の対応とオリンピックは両立しないので す。事故直後、作業員は2万円プラスリスク手当3万円ということで集めていたようですが、今や1万5000円に下がり、これも、果たして全額行くか分から ないという状況ということを、2日前、現地から聞きました。作業員の確保、これは深刻な問題です。今ですら深刻なのに、これ東京オリンピックの工事が本格 化した場合の状況は、容易に予見できるわけです。東日本の震災からの復興についても同様です。これと両立するわけがないのです。ところがこういうことを言 えば袋叩きに遭うということで、誰も言おうといたしません。私はもう覚悟はできておりますので、言い続けているわけです。この点、何故、理解できないの か、私は不思議でなりません。


4.国家の危機への対応

 つい最近、日本がいかに脆弱な状態に置かれているかを思わせる、ある出来事がありました。それをご紹介します。先ほどちょっと出ましたが、自然解決財団 がアメリカにありまして、非常に強力な財団で、これまで環境政策、例えば農薬で有害なものを使わせようとする政策を、1週間で100万余のメールを発出さ せて、政策を変更させたというような、実績のある財団です。そこから一つの動画の情報が送られてきました。それを見ましたらびっくりしました。その動画で は2分弱、福島第一の原発の隣接地点で炎が光る情景が示されておりました。同財団より火災ではないか確認を依頼するメールが、私に所に来ております。これ はちょうど今年の1月にロシア国防、いわゆるロシア秘密国防報告なるものが、12月31日に福島第一の地下で2度爆発があったとの情報が入り、私は真っ青 になりました。経産省に問い合わせて、それは地下爆発ではなく、茨城県の地震が見違えられたんだろうという回答を得て、関係方面にその情報を流して安心し てもらった経緯があるのですが、今度もまた同じように震えを覚えながら、官邸を始め関係方面に全部連絡して確認を求めてみましたところ、ついに昨日、経産 省の担当課長、及び規制委員会の委員から数字を上げて、現状の数値に異状はないということが送られてまいりました。それで私も安心して、自然解決財団にそ の旨伝えたところです。こういうことをしないと間違った衝撃的な情報が全世界に駆け巡ってしまうわけです。正しい情報を入手するのは、今非常に重要だと思 います。
 そしてそういう中で、ありがたかったのは「国家の危機への対応」ということを、私は1年以上前から、今は立場の違いを乗り越えて国家の危機に対応すべき だということを経産省などの責任者にも説いて、私のように国の政策に反対している立場の者とも、直接メールで情報交換できる体制ができておりました。です から1月の国防報告の時もその体制ですぐ確認をとることができたわけです。今回も非常に丁寧に関係方面は対応してくれました。海外で広まった不安をとりあ えずは解消することができたわけです。私の国家の危機だという認識は、官僚にも理解する者がいるということが確認できており、その点は救いだと思っている ところです。
 国際社会におけるこの名誉ある地位はもう失われていることは先ほど来の話でご理解いただけたと思います。
 それから日本社会は不道徳社会になっている点についても皆さんのご同感をいただけると思います。もううそをつくことが何ともない。うそをついて、そのう そが発覚しても、これをみんな責めない。一番良い例が、今回の福島事故の起因は(津波ではなく)地震であるとする説はもう確立しております。ところが国会 事故調が現場の第1号機に確認に行こうとしたら、明かりがないなどうそをついて行かせなかった。そして国会で東電の責任者が「あれはうそだった」と国会で 明かしても、誰も責任を追及しないわけです。そして今年1月、川内博史議員が1号機に入って、自らカメラで撮影しようとしたら、東電の人が代わりにやると 申し出て、何度も念を押したのに、実際は撮っていなかった。そこでまた1カ月おいて、再度、被爆を浴びながら、撮影した貴重な資料があるのです。こういう 姑息なうそは、もう分かっているのにいまだ原因不明だとして原発の長期停止を避けようとしております。もうそういう事例は枚挙に暇がありません。今の日本 の状況を、米国の軍の有名な退役者が、もう数カ月前に、日本は外国から援助を申し入れても受け入れようとしない、バンド演出等が続けられるタイタニックの ごとくオリンピックで浮かれている、このような日本がどうなっても世界はもう同情しないだろうと、そこまで言い切った論説が、アメリカでは発表されており ます。


5.福島事故の教訓

 これは先ほど申しましたとおり原発の存在そのものが安全保障問題であることが示されたことが福島事故の教訓です。そして外国の有名な科学者が主張するよ うに、人間社会が受容できないような可能性をもたらす科学技術というものは、その事故の可能性が少ないことについていかなる数値がはじかれようとも、完全 にゼロでなければ、お払い箱ということです。ですから先ほど指摘しましたように、原発は安全ではないことを承知しながら、なおその安全性を改善するなどと いうことは、本当にとんでもない発想です。これが正常な感覚だと思います。私はこれをゼロ原則の確立と言っております。それは科学技術の限界の認識を必要 とするもので、著名な科学者はそれを踏まえて、先ほどの主張をしているわけです。
 それから福島事故は、やはり文明の転換の必要性を示しました。これは父性文明から母性文明への転換、そしてもう1つこの指導者の必要条件というものにつ いても教訓を示しています。やはり感性の制御のない知性は、エゴイズムに陥るのです。そして私がよく引用するチャップリンの言葉ですが、「我々が必要とす るのは機械ではなく人間性である。利口さよりも優しさと思いやりである」。この感性と思いやりこそ、指導者の必要条件であると思います。私はそういう指導 者を、グローバルブレインと呼んでおりますが、このグローバルブレインは単に上層ではなく、社会のすべての分野でそういう役割を果たすべきだということを 言っているわけです。
この福島の教訓が完全に忘れ去られようとしている状況は、先ほど述べたとおりでありますが、天地の摂理は、さはさせじと動き出す、私はそれを確信しているところです。


6.文明の危機への対応

 ニューヨークでの私の「新しい文明を築く時」と題するスピーチの要約をおくばりしてあります。ここで、私は次の諸点を述べました。今の物質主義は貪欲に 基づくものである。今や人類と地球の将来を脅かすに至っている。そしてあまねく拡がった経済至上主義は、現世代の倫理の浸食をもたらしている。このような 認識から倫理と連帯に立脚し、環境と未来の世代の利益を尊重する新たな文明の創設に取り組む時が到来したと信じている。そして重要なのが、少欲知足であ る。そしてこの幸福は富を欲望で割って計られている数式、この数式に置いて欲望は分母であり、富は分子である。この数式は非常に分かりやすいと思います。
 さらに文明の方向性としては3つを指摘しました。これは私がアメリカでも支持を受け得るということを実際確認しております。それは物質主義から精神主義 へ、貪欲から少欲知足へ、利己主義から連帯へ、この3つの転換が求められているということです。そして3つの課題として、一つは地球倫理の確立です。2番 目に、真の指導者の養成。そして経済至上主義と文化間のバランスの回復、この3つを示しました。
 お配りしました、父性文化と母性文化の対照表を一瞥いただきたいと思います。目標との関係では、進歩に対して進化、直進に対して循環。他者との関係では 自己中心に対して全体、競争に対して調和、対立に対して協調、弱者切り捨てに対して弱者への配慮、排他性に対して開放制、厳格に対して寛容、ヒエラルキー に対して対等。自己実現との関係では知性重視に対して感性とのバランス、強欲に対して少欲知足、権力に対して哲学。目的達成手段は実力行使に対して対話、 トップダウンに対してボトムアップ、指揮統制に対して自発性。環境との関係では自然征服に対して共生(トモイキ)。頭脳との関係では左脳重視に対して右脳 重視。その他、絶対主義に対して相対主義、神に対して生命、保守主義に対して革新主義、原子力エネルギーに対して自然エネルギー、独裁に対して民主主義。 この対照表を見ますと、父性文化は歴史が立証していると思いますが、必ず破局をもたらすことが想起されます。この潮流を切り替えたのが、私はオバマ大統領 の誕生だと思っております。母性文化の国際的潮流を生んだのがオバマ大統領の歴史的役割です。母性文化のケネディ大統領、それが生んだ母性文化のオバマ大 統領、そしてケネディ大統領の誕生に貢献した母性文化のケネディ大使を結ぶのは母性文化のラインです。私は核廃絶というものは意外に早く進展を見るのでは ないか、そして進展させなければいけないと考えております。オバマ大統領とケネディ大使の間は兄妹の関係と言えるほど緊密であり,着任後広島、長崎、福島 第一を訪れているケネディ大使の尽力によって核廃絶は意外に進展し得るのではないかと、そういう期待を抱いております。私はいつも非常に楽観的でありま す。しかし天地の摂理の読みにおいては、これまで人後に落ちないと思います。


7.日本の歴史的役割

 そして最後に、日本の歴史的役割について述べます。私は日本は今や三位一体の発信を世界に行うべきであると訴えております。それは究極的には民事、軍事 を問わない核廃絶への貢献ですが、そのためには2つの条件がある。一つは今の力の父性文明を、和のあるいは命の母性文明に転換する。そしてこれにも前提条 件がある。それは地球倫理の確立である。そして地球倫理の確立の入り口となるのは、国連倫理サミットの開催であるということです。そしてこの国連倫理サ ミット開催に、アメリカの駐日大使を通じて、オバマ大統領がイニシアチブをとるように呼び掛けてまいっております。ケネディ大使の前任のルース大使から は、3通の手紙を頂きました。その中で私のそういった努力が、オバマ大統領のビジョン達成のために力を合わせることの重要性を想起させるものであるという ことで、謝意表明を頂いているわけです。私はこの努力を続けて、是が非でもオバマ大統領の尽力を、国連倫理サミットのために引き出したいと願っておりま す。
 そういう中で、今年の3月のニューヨークでのユネスコクラブ世界連盟の総会は非常に有意義でした。特にこの会議に備えまして、実は服部会長からのサジェ ストがありまして共同声明というものを作りました。実は原案では3通も手紙をもらっておりますマハティール・マレイシア元首相と小泉元総理の共同声明にし ようとしました。ところがなかなか返事が来ませんので、他を当たりましたら細川元総理がこれに賛同してくださいました。それからなんとスイスのロイエンベ ルガー元邦大統領が賛同してくれました。この共同声明はどういう内容かといえば、タイトルは「3.11を地球倫理国際日にすることを訴える」ということで すが、核拡散の防止と平和利用の促進という完全に矛盾する任務を負わされているIAEAの改革を含む画期的な内容です。IAEAは平和利用促進の立場か ら、事故の矮小化、放射能の危険性の矮小化をせざるを得ない組織になっているわけです。このような組織を放置することは恥ずべきことです。加盟国はこの改 革を主張しないといけません。目下、ローマ法王とカーター元大統領にもその賛同を求めております。もちろん容易ではないとは思いますが、ローマ法王は私の 訴えに対して、書簡受領の返事を下さっております。この共同声明はまだ公表には至っておりませんが、今回のニューヨーク会議の大きな成果の一つだと思って おります。
 それから3月8日は世界女性の日でスピーチをしました。そして3月10日にもスピーチをしましたが、この2つのスピーチが今反響を呼んでおりまして、私 は発信の機会が増えております。6月には神戸外大と京都外大、それから来週は仙台、6月15日は大阪、そして10月は早稲田大学で「原発事故と地球倫理」 というテーマのスピーチを頼まれております。おそらく来年3月の仙台での国連事故リスク縮小会議にも協力をすることになるのではないかと思っております。
 昨年の末に、私はオバマ大統領、国連事務総長、ケネディ大使に書簡を送りました。その中で、「日本の命運は電力会社によって左右される」との9年前の警 告がそのとおりになったことを指摘し、今や「世界の命運は、もし福島の教訓を学ばなければ、電力会社によって左右される」ということを書きました。これが 国連事務総長を動かしたのでしょう。3月に私がニューヨークに行きましたら、特別補佐官から、会いたいと言ってきまして、その特別補佐官に共同声明の内 容、スピーチの内容などを説明したところ、十分な理解を示されました。非常に私は喜んでいるところです。
 要するに、国際社会における名誉ある地位を回復するためには最大限の努力をして事故処理に当たる、これを可能とするために、東京オリンピックを返上する、そしてIAEAの改革に踏み切る音頭を日本が取る、これしかないと確信しております。以上です。




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