日本経団連
米倉弘昌会長殿

平成23年11月6日
地球システム・倫理学会
常任理事   村田光平
(元駐スイス大使)

拝啓

時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

福島の事故はもはや日本のみならず世界、更には地球の問題に発展している感があります。しかし、国内の受け止め方はまるで一件落着であるかのごとくであ り、格差の大きさに驚きます。メルトダウン、メルトスルー、そしてメルトアウトの現状把握が不可能とされる現状に対し、ネットで伝えられる水蒸気噴出、再 臨界などは情勢悪化の極めて憂慮される兆候である可能性も否定できず、その解明と結果発表が急務と思われます。

信頼されている一部の専門家は福島原発の地下が「冷温停止」が通用しない大変な状態にあると指摘しております。取り沙汰される地下でうごめく溶解燃料棒の 問題は人類未経験の全世界の問題だと思われます。最悪の場合を想定し、その解決に向けて人類の叡智を結集することが求められます。

脱原発を求める世論は高まりつつあり、今後恐ろしい被害の実態が表面化するにつれてどのように変化するかを注目する必要があります。
馬渕睦夫元駐ウクライナ大使のチェルノブイリ事故の被害に関する最近の論文では次の点が指摘されております。
1.ウクライナ政府の発表では、因果関係を医学的に立証することは困難であるものの、原発事故関連の疾病被害者は約260万人、このうち子供が62万人となっている。住民の健康被害は25年たった現在も続いている。
2.住民の強制避難は最終的には約30万人、事故後の緊急救助活動に従事した作業者60万人の内10パーセントに当たる6万人が死亡し、16万5千人が身体障害者になったとのデータもある。



2004年に始められた浜岡原発の運転停止を求める全国署名運動は、このほど100万筆に到達しました。運転再開はありえないと思われます。
来年5月頃には全ての原発が停止しますが、安全を保証する国民に信頼される機関が存在しない状況下での再稼動はありえず、日本の脱原発は少なくとも事実上実現する見通しになりました。「天地の摂理」だと考えられます。

去る10月5日、法政大学で開催された国際コロキアム(スイスチューリッヒ工科大学と共催)でスピーチを行い、(1)福島事故は近隣自治体、近隣諸国の脱 原発志向を強め、真の核廃絶のためのグローバルな運動を生む可能性があること(牧之原市現象)(2)電源と水を断つことにより大惨事となる原発の脆弱性が 示され核テロの脅威が増大したこと、(3)原発の大幅増設を計画する中国からの黄砂や核テロなどの対策として真の核廃絶を急ぐ必要が生じたことなどを指摘 しました。ドイツ、スイス、スウェーデンなど脱原発を目指す国々が中心となり、原発を持たない国々も参加する真の核廃絶のためのグローバルな運動について は、去る9月29日、政治協議のため来日したMaurerスイス外務次官ともBucherスイス大使公邸での午餐会で話し合うことができました。新しい努 力目標の誕生です。

福島原発の地下の状況は公式に発表されている通りとは信じられません。対応を誤れば、東京が住めなくなり、日本経済が壊滅的影響を蒙り世界を震撼させることにもなりかねません。あらゆる立場の相違を乗り越えて経済界も含め、内外の総力を結集することが求められます。

貴会長のご尽力を心からお願い申し上げます。
一層のご活躍とご自愛をお祈り申し上げます。
敬具

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