社会・政治系サイト「KAZE to HIKARI」に掲載されたインタビュー記事



安倍さんは関心を示してくれなかった

投稿日:2013年7月17日
 
 

■元在スイス大使の村田光平さん、お話をうかがいました(前半)。

 
ユネスコクラブ世界連盟は、3月11日を『地球倫理国際日』と決めました

高橋
第二次世界大戦で核兵器が使われ、戦後、それをもつことが平和維持に必要なんだという論理で、冷戦構造のなか大量の核兵器作られました。それと同時に、『核の平和利用』という論理で膨大な原子力発電所が作られました。核と私たちはどのような関係にありますか。
 
村田さん
核と人類は共存できない、原発事故は人間社会が受容できない、ということがすでに完全に立証されています。ところが、今日の『原子力独裁』は、戦時中の軍 国主義とまったく同じです。何を言っても聞かない、どんな正しいことを言っても無視する。原子力発電所は危険だ、といくら言っても彼らは聞かなかった。そ しているうちに、福島の事故は起きてしまったのです。それでも、『原子力独裁』は一切反省しない。それどころか、巻き返しをはかっているのです

高橋
そうですね、事故収束だけみても、3.11当時より、今、汚染水として飛び出している放射能は多くなっています。問題は小さくなるどころが、ますます大きくなっている。一方で、『原子力独裁』は世論操作や再開稼働にむけて、巻き返していますね。

村田さん
しかし、私はかならずしも悲観していません。こうした過ちに対して、世界的視点から見ると、『倫理の逆襲』が起きているのです。
今年3月11日に、イタリアで開催されたユネスコクラブ世界連盟は、3月11日を『地球倫理国際日』とする、と決めました。3.11という日本の震災に焦 点を合わせた、という点で大きな意味があります。しかし、マスコミはこのことを一切報道しません。来年は、ワシントンで開催され、私もスピーチを頼まれて います。できれば、その時に『国連倫理サミット』実現への道を開きたいです。
もうひとつ、核戦争防止国際医師会議(IPPNW、1980年設立、83カ国、20万人の医者が参加)が、6月の初めに宣言を出しました。「福島事故は収 束から程遠い、そして原子力発電所はすべての世界中の人を無差別に放射能汚染にさらし、きわめて危険である」と。この組織はこれまで核兵器に反対していい たのですが、『核の平和利用』の反対にも踏み切ったわけです。画期的なことです。しかしマスコミはこのことについても報道しません。


原発そのものはいかなる核兵器よりも危険である

高橋
『核の平和利用』の拒否に、倫理観がはたす役割は非常に大きいですね。ドイツでも、科学的な議論だけではなく、倫理や哲学から原発を論じる委員会がつくられ、脱原発へすすむという経緯があります。

村田さん
福島の事故の最大の教訓は、原発そのものはいかなる核兵器よりも危険である、ということが立証されたわけです。この現実について、ちゃんと感性と倫理観が あれば誰も反対できないのです。原発の危険性は、10冊、100冊の本を読まなくても分かるはずです。今の電力問題、エネルギー問題などの議論は、この感 性に煙幕をかぶせることに過ぎません。

高橋
いまだに『核の平和利用』とこの人間社会を、技術的、経済的、政治的に、何とか折り合わせようとする勢力がいますが、一般の人たちはこの『平和利用』とい う原点を信じて、その折り合いを見守る人々が多いですね。たとえば電力が足りるとか、足りないとか、燃料費が高いとか、貿易収支が赤字になるとか。

 村田さん
そう、そう、感性のある人には馬鹿らしくて聞いておられません。感性があれば誰でも分かります。まず、原発を止めなければいけないのです。人間の英知とい うのは、そこから始まります。原発ゼロと決めれば、うまくやる方法はいくらでも生まれるのでしょう。IAEAは、核拡散しないようにしながら、『核の平和 利用』を促す任務を持っているが、これは両立しません。広島や長崎の核兵器廃絶運動も、核拡散をもたらした『核の平和利用』について反対をしなければ、 まったく『魂』が入っていません。


安倍さんは関心を示してくれなかった
子どもたちを集団疎開させるべきです

高橋
そうした無意味な議論とはまったく関係なく、漏れ出た、あるいは今も漏れている放射能で、子どもたちの生命の危険性が心配されています。

村田さん
これは大変な問題です。昨年の10月、安倍総理にこの問題で会いに行きました。しかし、安倍さんは関心を示してくれなかったのです。子どもたちを集団疎開させるべきですが、今の政権の反応は冷たいですね。

高橋
放射能の問題は、疫学的な相関性を示す数値もなかなかとれない、医学的に因果関係の立証も簡単ではない。まして、電力のようにすぐに表に現れてきません。こうした、切断面が見えないフクシマということに、どのような感性を働かせるといいですか。

村田さん
ウクライナではチェルノブイリ原発事故の被害を、政府が発表しています。それによれば、放射能被害で病気になった被害者の数は260万人、そのうち子ども は62万人という数字が出ています。恐ろしいです。ところが、現在の日本は、こうした放射能の被害問題をできるだけ小さく見せようとしています。日本の人 口が半分以下のウクライナが、この程度ですから、日本はもっと深刻なわけです。

高橋
そんな国が、オリンピックを誘致するのに躍起です。

村田さん
福島の事故処理に、国は本来の責任を果たせていないと思います。私が訴え続けている事故処理の国策化をためらっております。だからこそ、日本の外から「福 島事故は収束から程遠い」と、IPPNWが宣言を出すわけです。宣言を見た世界中の人たちは、なぜ日本はオリンピック誘致などするのだ、とんでもない、不 道徳国家だと見ているわけです。私は猪瀬知事にも、そのことを数度にわたり伝えています。





■元在スイス大使の村田光平さん、お話をうかがいました(後半)


不道徳国家、お笑い国家さながら

投稿日:2013年7月18日



温暖化問題と原発の問題をどう考えますか

 高橋
1900年16億人だった世界人口が、2000年には60億と2次曲線的に人口爆発が起きました。しかし、増加率は1965年から1969年に2.1%の ピークをたどり、そこから低減を始め現在は1%を切っています。こうした人類史にとっても最もホットだった20世紀に核が生まれて、他にもやりようはある のですが、原発がエネルギーを支える役割を担ってきました。

村田さん
私は、10数年前からGDP経済学にとって代わる「知足経済学」を提唱しています。一部の「勝者」のみが贅沢に生き残るような社会は、民主主義、人道の見 地から言って、極力避けなければなりません。求めるものは、最大多数の最大幸福です。ところが、この期に及んでも、まだ、成長、成長、消費、消費というの はおかしいわけで、長続きするわけがありません。効率、効率、と追いかけていくと、しまいには人間が必要なくなってきます。機械化が今も失業を生んでま す。


高橋
ところで、国際舞台で活躍されている村田さんにとって、温暖化問題と原発の問題は、どのように昇華されていますか。

村田さん
温暖化と二酸化炭素の問題を一概に否定することはできません。どちらかを選べというなら、緊急性から放射能問題を先に解決すべきでしょう。ただ、IPCC が温暖化と二酸化炭素の問題を警告したことを、原子力推進のひとたちが利用したというのは事実でしょうね。何でも利用します。ようするに、金と力があれ ば、倫理がなければ何でも悪いことをするのですね。

 
不道徳国家、お笑い国家さながら

村田さん
原発事故が収束からほど遠いいと海外からみなされている状況の下で、オリンピック誘致をするのは無責任、不道徳国家とのそしりを免れません。それにもまし て、この地震大国にこれだけの原発があるというのは、とても危険です。国会事故調に参加された田中三彦さんは、今回の福島事故の原因を地震だと確信してい ますね。東電が国会に黒塗りの資料を提出するなどあらゆる策を弄して地震事故説の確立を阻止しようとしている状況証拠からもそう判断されます。

高橋
私も国会事故調の報告を丹念に読んで、そう思いました。民主党の川内前衆議院議員も東電以外では1号機に初めて入り、同じような感想を述べられています。 小出先生は30年前の論文で、地震ですべての機能を失う危険性をすでにご指摘されています。私たちの調べでは、地球上で地震が多い新期造山帯に原発は68 基あり(全体は431基)、そのうち54基は日本です。

村田さん
そうなのです。非常に危険です。地震が原因だということになると、現在の原発の耐震基準の改定が必要となりますから、すべての原発を長期間とめなくていけません。だから、何とか津波のせいにしたいのです。

高橋
小出先生は、原発を作ることは核兵器を作るための布石だ、ということを指摘されています。確かに、核兵器保有国では、原発はそうした機能を確実に果たしてきました。

村田さん
今、最も危惧しなくてはいけないのは、原発へのサイバー攻撃です。これをやられては、ひとたまりもありません。日本を守るためなどと考えて日本中に原発を つくったとしたならば、これは日本中に自らを攻撃する核兵器を配置しているのと同じで、お笑いなのです。お笑い国家ですね。
 

日本は完全に武士道精神がなくなったのです

高橋
村田さんは、今の政治家に何を期待しますか

村田さん
いや、今の政府の原子力政策には絶望していますね。これを放置する政治家に絶望しています。もちろん、中にはしっかりしている人もいますが。世界から見る と、日本は本当に嘘をつきまくっていますね。しかも、嘘をつかれても国民は怒らないでしょう。日本は正しい武士道精神がなくなったのです。私は、武士道精 神の復興が必要だと思います。今の状況は、責任感・正義感・倫理観の「三カン欠如」に起因する「日本病」です。

高橋
村田さんと初めてお会いしたのは、昨年12月、外人記者クラブで小沢一郎さんの記者会見の時です。今回の選挙で、小出先生のお話をきちんと訊いて、それを公約に入れたのは生活の党だけです。

村田さん
このあいだテレビを見ていたら小沢さんが、すべての力を事故処理にそそぐ、と言っていました。そういう意味では、今、小沢さんが一番やるべきことを言っていると思います。強力なリーダーシップがないと事故処理はすすまないですね。

高橋
それにしても、村田さんは上品な方、という印象がありますが、こうしてお話をしていますと武士道精神を大事にされる侍、という感じがしますね。

村田さん
広島、長崎、福島を経験した日本は、軍事、民事(原発)を問わない核廃絶を、世界中に発信しなければいけません。私は4年半前に、『地球倫理国際日』を言 い出しました。その際「倫理」の意味するものを詳細につめないでおこう、という立場をとりました。言い出すと、そこで論争がはじまって前に進まないからで す。何とか『国連倫理サミット』実現への道を開きたいです。倫理と責任に欠ける『核の平和利用』は認められないのです。

高橋
村田さんの、国内外を問わない、『倫理』を軸にしたご活躍を、心強く思います。ぜひ、今後も私たちを導いてください。ありがとうございました。

 

【参考】村田光平さんの提唱する『母性文化』

村田さんは、日本はもともと母性文化であったが近代化で失われたと分析し、この復権を提唱されています。近代日本の父性文化と比較されていますので、その 一部をご紹介します。母性文化/父性文化というかかたちで、競争/調和、対立/協調、厳格/寛容、知性重視/感性とのバランス、トップダウン/ボトムアッ プ、保守主義/革新主義など、そして原子力エネルギー/自然エネルギーと登場させ、独裁/民主主義と結んでいます。とても興味深いです。

 

 



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