大学卒業後、出版社に入社。販売営業部へ配属された。資本主義社会である日本ではあるが、この業界には昔からの決まり事がある。出版文化を守るという信念
だ。すなわち憲法で定められたところの言論の自由、という事柄に基づく一種の社会に対す使命感である。出版に携わる者として決して放棄してはならないポリ
シーだ。
が、現実はそういうものではない。出版社といえども利益を出さなくてはならない。他の業種の会社と何らの代わりは無い一企業なのだ。確かに中には利益な
ど度外視している出版社もある。しかし現実、人は霞を食って生きることは出来ない。出版に対する基本的姿勢、社会に対する正義感も利益主義の言葉に太刀打
ち出来ない。これが日本の出版業界の姿だ。
大手版元であろうと、いや大手であるがゆえどの業界にもある大企業病に日々悩まされている。利益の大半が広告収入で賄われ、その上で言論の自由を振りか
ざしているのが現実なのだ。しかし実際のところ編集人の信念もスポンサーの前では屈服せざるを得ない厳しい現実に直面している。そしてその編集者とクライ
アント企業の板さみにあうのが営業部の仕事である。
長年、商業雑誌を担当していてこの双方の立場を汲み取った上で、今一度ライターとして出版業界へ戻る決意である。スポンサーに媚びるつもりは無い。しか
し利益生み出さねばならないことも骨の髄までしみこんでいる。どのような解決策があるのかと尋ねられたとしても、今現在それは答えることは出来ない。百年
以上も前から存在するこの問題に、いまだ誰も解決する術を見出せないのだ。
しかし個人の力ではどう仕様にも無い現実ではあるが、理想と現実の間を行き来し
ながらもいつかその答えを出したい。個人では非力ではあるものの真っ向から現実に
ぶつかってみたい。出版社の営業をした者しか経験出来ない非常に難しく立場、しか
し逆に言えば貴重な体験をしてきたのだ。
言葉の巧みさや、物事をいろんな切り口から考え書くことは確かに必要である。そ
れが重宝されることも正しくもある。が、しかし社会は華やかな面だけではないのだ。自由自在に言葉を操って解決するほど単純なものではないのだ。社会人としての
経験、それも一種独特の出版の世界において社会を見てきた経験から、これからチャ
レンジしてみたい。 |